ガラス作家・中村小春さん(2ページ目)

パート・ド・ヴェールは古代からの技法

すっきりと気持ちよいアトリエの一角。
中村さんのアトリエがあるのは、普通のマンションの一室。 ６畳ほどの部屋の壁に沿って作業机が置かれ、 反対側には材料やガラスを削る機械、そしてベランダに窯があります。 こじんまりと小さなスペースに、きれいに整頓された道具が並んでいます。 「細かい作業なので、こんな感じで大丈夫なんですよ」。
中村さんの作るガラスはパート・ド・ヴェールという技法。 さっとできる瞬間勝負の吹きガラスと違って、 コツコツ時間をかけて作るガラスです。 まずは粘土で原型を作り、それに耐火石膏をかけて型を抜きます。 その石膏型にガラスの粒を少しずつ敷き詰めて、形を作っていきます。 窯で焼いてガラスが固まったら、石膏を割ってガラスを取り出します。 古代メソポタミア文明の時代に生み出されたといわれる、 ガラス技法では最も古い技法の一つです。 色や模様の組み合わせを考えながら、 ガラス粒をコツコツと敷き詰める原始的な作業なので、 時間も手間も相当かかりますが、 繊細でデリケートな彩りや質感は、やはりこの技法ならではのもの。
「吹きガラスは短時間でできるのですが、私には向いてなかったようです。 じっくり時間をかけて作業するのがよかった。 伝統的技法であることや、繊細な絵付けができるのも、興味の深まった要因のひとつだと思います」。


左上：石膏の抜き型と模様を彫るための道具（本当はガリ版印刷用だとか）。
右上：まず油粘土で形を作り、これを石膏で抜きます。
左下：自ら実験して研究を重ねたものが、ノートに丁寧に記されています。
右下：材料であるガラス粒。お砂糖のような細かい粒を敷き詰めます。

パート・ド・ヴェールを始めて以来、自分の作りたい理想のものにたどり着くため、 中村さんは日々研究を続けています。 最初の２年間は実験ばかりしていたそうで、どんな風に窯に置いて、 何度で何時間焼いて、湿度や素材の状態はどうだったか、という細かな工程を 全てノートに記しています。失敗も全て記録し、自らの体験から学んでいきました。 「もう10年近くやってますが、今でもやりたいこと、試したいことがたくさんあります。 やればやるほど、もっとやりたいことが出てきてしまって。 だからやめられないんですね」。


内側には自分でニクロム線を張り、手作りしたという窯。

性格的にはアーティストではなく、職人肌だという中村さん。 「例えば石を磨く職人さんの手さばきなどを見ると、 モノに対して真面目な姿に改めて感動し、自分の精神的な甘さ を追求してしまう。でも 私自身、あれこれ試行錯誤しながらも、作っているときがとにかく一番楽しいんです。 ガラスはライフワークとして、一生かけてやっていきたいことです」。


アトリエのあちこちには、アーティストの作品やブライス人形、アメリカ
ヴィンテージのシャンプー人形など、ユニークなものがちょこちょこ並んでいます。


このパンダの針刺しやマチ針も中村さんの手作り。マチ針はなんと
飲茶モチーフ！ガラス作業の準備運動として作ったりするそうです。

さて、中村さんのアトリエの一角には、ちょっとお茶目なコーナーがあります。 中村さんの趣味で集まった、アート作品やアンティークの雑貨などが あちこちに散りばめられ、殺風景になりがちなアトリエをほっこり和ませてくれます。 好きなものに囲まれながら、自分に厳しくも楽しくガラス制作を続けている 中村さん。ふわりと柔らかなお人柄ながら、作品に対しては真摯に向き合う強い意志を持ち、今後の活動も楽しみです。



中村小春さんのアトリエ
〒167-0043
東京都杉並区上荻2-30-9-507
saiyuuki.glass＠auone.jp（＠を英数字に変える）
※店ではありませんので、事前にご連絡下さい。


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