今年で5年がたちました

今でも、電車に乗れない人がいます

今でも、電車に乗れない人がいます

2005年4月25日午前9時すぎに、JR西日本の福知山線で列車脱線事故が起こりました。JRとなってから最大規模の惨事で、運転士と乗客を合わせて107名が亡くなり、562名が怪我を負いました。

車両がマンションの駐車場に入り込んだり、壁面にぶつかったりしてすさまじく壊れている映像に、強い衝撃を受けたことを覚えています。

先日、毎日新聞が犠牲者の遺族と負傷者に行ったアンケートでは、42人の遺族と39人の負傷者から回答が得られています。

現在の具体的な状況を尋ねたところ、「急に涙出る」「自らを責める」「気持ちが不安定」「眠れない」「周囲から取り残されたように思う」など、精神的に不安定な方がまだ多いことが分かりました。また、「以前ほど出歩けない」「電車に乗ることができない」「仕事や家事が以前ほどできない」など、社会生活や家庭生活での問題も高率に抱えているようです。

専門家による精神的な治療やカウンセリングを受けたことがある人は、負傷者の69%、遺族では48%でした。これらの治療には、「心の整理になる」「少しずつ夜眠れるようになった」「人と接する不安が減り、就職することができた」などの効果が認められました。しかし、治療は長期間にわたり、事故後5年たっても遺族の26%、負傷者の21%が治療を続けています。

事故の直後には、近くの会社や市場にいた人たち約400人が救助に携わってくれました。これらボランティアのうち3割の方に惨事ストレスが残っていることが、北里大学などの調査で明らかになりました。

負傷者の救出や搬送、応急手当てを行った一般市民のうち65%が、事故のことを思い出す際に、「罪悪感」「不眠」「疲労感」などのストレス症状を経験しています。このうち46%の人では1か月後までに症状がなくなりましたが、29%の人では事故から4年以上たった時点でも症状が残っていました。


トラウマによる睡眠障害

あなたの責任ではありませんよ

あなたの責任ではありませんよ

危うく死にそうになったり、実際に重傷を負うような体験が心の傷(=トラウマ)となって、精神的な障害を起こすものを「外傷後ストレス障害(PTSD)」といいます。

自分に害が及ばなくても、人が亡くなったり死にかけている状況を目にするだけで、強いストレスを感じます。

アメリカでは、ベトナム戦争からの帰還兵やレイプ被害者にこの障害が多くみられ、早くから社会問題となっていました。日本でも1995年の阪神淡路大震災以来、マスコミを通して一般の人にもこの障害が広く知られるようになりました。

外傷後ストレス障害(PTSD)では、引き金になった出来事を、意思に反して頻繁に思い出すことが主な症状です。患者さんはその出来事を思い出したくないため、トラウマに関連することや場所を避けるようになります。

ひどくなると、その出来事を実際にいま起こっているかのように、リアルに再体験することもあり、「フラッシュバック」と呼ばれています。いつフラッシュバックが起こるか分からない恐怖感から、感情が麻痺して日々の活動に無関心となり、引きこもり状態になることもあります。

症状が3カ月を超えて続くときには、慢性の外傷後ストレス障害(PTSD)とみなされます。慢性になると、抑うつ気分や他の不安障害、薬物への依存傾向が増えてきます。

外傷後ストレス障害(PTSD)による睡眠障害としては、寝つきの悪さや夜中に目が覚めてしまうこと、熟睡感がないことなどが挙げられます。特に、夜中に目覚めてしまうことが、この障害と関係が深いと考えられています。

アメリカでの研究では、戦争の体験から生じた外傷後ストレス障害(PTSD)では、多くの人が20~30年たっても睡眠障害に悩まされることが明らかになっています。入院治療プログラムに参加している元・軍人の調査では、91%が夜中に目覚めてしまい、44%が寝つきの悪さに悩んでいます。

繰り返し悪夢を見ることも、外傷後ストレス障害(PTSD)の特徴です。ベトナム戦争後にアメリカへ帰還した兵士の60%が、月に1回以上の悪夢を見ているという報告があります。健常な若年者が悪夢を見る確率は、20~24%の人がせいぜい年に1回以下ですから、これはかなりな高率です。また、悪夢を見る頻度は、トラウマからの経過期間やその強烈さが大きく関与しているとも言われています。

福知山線の列車脱線事故からは、まだ5年しかたっていませんから、多くの人が外傷後ストレス障害(PTSD)やそれによる睡眠障害に悩んでいるも分かります。


道のりは長いけれど

明けない夜はありません

明けない夜はありません

外傷後ストレス障害(PTSD)の治療として、心理療法と薬物療法が行われます。

心理療法には、認知行動療法の一つである「暴露療法」と、 「眼球運動による脱感作および再処理法」が正式名称の「EMDR」が行われています。

暴露療法は暴露反応妨害法とも呼ばれ、不安が引き起こされる状況を想像したり、トラウマに関係する場所に少しずつ近づいたりして、トラウマから逃げず徐々に慣れることを目指します。

EDMRは、1989年に発表された比較的新しい治療法です。原因となった出来事を思い出しながら、治療者が左右に動かす指を見つめるものです。目の運動が脳の情報処理のプロセスを活性化して、早くトラウマと折り合いをつけられるようになります。

外傷後ストレス障害(PTSD)の薬物療法には、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬が使われます。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は催眠効果のほかに不安を軽くする作用もあるので、睡眠障害だけでなく日中の症状も軽くしてくれます。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬は、主に外傷後ストレス障害(PTSD)の中核症状に効果を発揮します。睡眠に関しても、主観的な睡眠の質を改善することが分かっています。ただし人によっては、睡眠時間が減ったり夜中に目覚める回数が増えるなど、悪影響が出ることがありますから注意が必要です。ベンゾジアゼピン系睡眠薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬が効かないときには、抗精神病薬が処方されることもあります。

事故や事件をきっかけとして生じた精神的な症状は、個人の性格や能力に問題があるのではありません。ストレスが起こした脳の機能障害ですから、れっきとした病気の一つです。1人で悩まず、早めに専門医の診察を受けてきちんと治療しましょう。そうすれば、きっと良くなるはずです。

【関連サイト】
眠れない・寝つきが悪い・眠りが浅い
All About ストレス
日本EMDR学会
精神科検索
メンタルヘルスの専門家検索
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