メンタルヘルス/その他の心の病気

ボディイメージと筋肉増強剤の危険な関係

ステロイドの種類には筋肉増強作用があるものがあり、その乱用は心身に大変危険です。筋肉増強剤の使用はスポーツ選手だけの問題ではなく、ボディイメージに悩みを持つ人の問題でもあります。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

筋肉増強剤は体を筋骨隆々にしますが、その代価として、心身に深刻な障害が生じ、命を縮めてしまう事もあります
自分の肉体に何らかの不満がある人は多いのではないでしょうか。特に、10代後半から20代前半は「異性にもてたい」が頭を占めやすく、魅力的な相手が現れると、周囲の友人もたちまちライバルと化してしまいます。映画やテレビで目にするスターやスポーツ選手の格好良さを目指して、ダイエットやジム通いを始める男性は少なくありません。

筋肉増強剤はそんな人たちにとって、手っ取り早い答えに見えてしまう事があります。実は、筋肉増強剤はスポーツ選手だけの問題ではなく、ボディイメージに悩みを持つ人の問題でもあるのです。今回は、筋肉増強剤の使用とその背後にあるボディイメージの問題について述べたいと思います。


ボディの自信の無さが筋肉増強剤の誘惑のたねに

子供の頃、身長や体形など体の特徴で仲間をからかった事やからかわれた事はなかったですか? こうしたからかいは、しばしば、心にコンプレックスを植えつけてしまい、異性を意識する思春期に、自分のボディに過剰に悪いイメージを持つ原因になり、「短期間で理想の体を手に入れる」といったフレーズに飛びづき易くなります。

例えば、腕が細い事を気にしている男性が、「腕に筋肉が付くと力強く見え、それを見た女の子はきっと自分を好きになる」との思いで、ジムに通い、プロテインを取りながら筋トレに励んだとします。この種の考え方は、他者から見ると、「腕が太く強そうに見えても、もてるとは限らないのに」と疑問を挟みたくなるものですが、ボディに自信が無くなると、腕の細さは重大な欠陥だという意識が拡大してしまい、考えの視野が狭まり、思考に合理性を欠き易くなるのです。こんな時、もしも仲間からステロイドの使用が筋肉を劇的に増強させ、ギリシャ彫刻のようにスリムで筋肉質になれる事を知らされたら、大いに誘惑を感じるでしょう。

ステロイドには幾つかのタイプがあり、抗アレルギー薬として使用されるなど、治療薬としても重要な物質ですが、筋肉増強作用が顕著なタイプもあります。男性ホルモンのテストステロンに類似した、蛋白同化ステロイドと呼ばれるものが、筋肉増強用に使用されるステロイド剤です。筋肉増強用のステロイド剤はウェートトレーニングと組み合わせると、確かに、筋肉量を短期間で劇的に増加させ、別人のようになる事が可能です。しかし、ボディイメージに囚われている人の目には、ステロイド剤を利用して完璧なボディに近づく事ばかり映り、長期間の使用が心身に重大な障害をもたらす事は見えにくいのです。

次に、筋肉増強用のステロイドの長期使用がもたらす深刻な問題について述べます。

筋肉増強用のステロイド剤の長期使用は大変、危険!

筋肉増強用のステロイド剤の長期使用は心身にさまざまな問題を引き起こします。まず、依存性の問題があり、使用を中断すると、気分の落込みや強い不安感が生じやすくなります。ステロイド剤の大量使用が長期間続くと、男性機能のみならず、体の様々な生理機能が変化します。ニキビに困ったり、髪の毛が抜けやすくなる。がん、肝機能障害、緑内障、心筋梗塞、脳血管系障害などのリスクが高まり、男性では睾丸や前立腺の縮小、女性では乳房萎縮、月経不全、多毛などが出現します。以下のような精神症状も出現して来ます。
  • ドアの開閉の音、肩がふれたなど、ちょっとした事に過敏になる
  • イライラしやすい
  • 敵愾心を抱き易い
  • 暴力行為
  • 気分の高揚
  • 幻覚や妄想
治療のゴールは他の薬物乱用、依存と同様に、問題の元凶である筋肉増強用のステロイド剤を二度と体に入れない事ですが、ステロイド剤の長期使用によって生じた肝機能障害、緑内障など体の問題への対処も必要です。また、心理療法によって、筋肉増強剤使用の背後にあるボディイメージの歪みを矯正する事も望ましいです。

ところで、他人の目から見た自分と、自分で思う自分の姿は意外と食い違っているのではないでしょうか? 例えば、周りの人からはハンサムと思われていても、自分では鼻の形に引け目を感じているといった事があります。私達には「外見を良くしなくてはいけない」というプレッシャーが多かれ少なかれありますが、自分のボディイメージへの不合理性が拡大している場合もありますので、ご用心下さい。
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