タバコ・禁煙/タバコの害・病気・禁煙のメリット

喫煙者だけど健康!「タバコを吸うけど、健診結果は問題ない」の落とし穴

【医師が解説】「タバコは止められないけれど、健康診断では一度も引っかかったことがない!」 実は健康診断や人間ドックの結果には現れないタバコのリスクがあるのです。健康に自信がある方にこそお伝えしたい、診断結果では見えない喫煙リスクと病気についてお話しします。

狭間 研至

執筆者:狭間 研至

医師 / 癌ガイド

健診結果「問題なし」でも危険? 数値には現れないタバコのリスク

「健診結果は毎年問題なかったのに……!!」 健診結果だけを過信してはいけません

「健診結果は毎年問題なかったのに……!!」 健診結果だけを過信してはいけません


多くの人が毎年定期的に受けている健康診断や人間ドック。「タバコは健康に悪い」ということはよく理解している喫煙者の方の中には、健診結果を見るのが毎年怖いという話もよく聞きます。しかし、おそるおそる結果を見ると、今年もどの検査項目も異常なし! 血圧、糖尿、コレステロールも問題なく、がんに関係があると言われている腫瘍マーカーとやらも正常値。おまけにレントゲンや心電図もすべて正常! よしよし。同僚の「メタボで引っかかっちゃったよ……」といった声を聞きながら、自分は健康体だと喜ぶ方も少なくないと思います。

タバコ、タバコってみんなうるさいけど、健康診断は毎年完璧。やっぱり、この一服は止められないね……。

今回は、喫煙していても健康には少し自信がある方にこそお伝えしたい、健康診断結果には現れない、タバコのリスクについてお話しします。
 

健康診断での早期発見が難しい、喫煙による肺気腫(COPD)

タバコが、肺がんや心筋梗塞、脳梗塞の原因にもなりうるということは、現代では広く知られています。しかし肺気腫(COPD)がどんな病気なのかは、あまりご存じない方がまだ多いようです。最近ではタバコのパッケージの注意書きにも記載してある病名ですが、英語では別名「タバコ病(Tobacco disease)」ともいわれるほどに、タバコとの明らかな因果関係がある疾患です。

肺気腫とは、一言で言うと、タバコの影響で肺の組織がボロボロに壊れてしまう病気です。肺は、空気中の酸素と、血液中の二酸化炭素を交換するための大切な臓器ですが、喫煙により肺の正常な機能が壊れてしまうことで、酸素が体内に取り込めなくなると同時に、体内の二酸化炭素を排出できなくなります。

そのため少し動いただけで息切れするようになり、在宅での酸素療法なども必要になります。さらに、症状が進むと呼吸困難のために坐位でなければ眠れなくなるなど、生活の質を非常に落としてしまう怖い病気です。

壊れた肺を治す薬はありませんので、最終的には肺移植も検討しなければならない状態になります。もちろん、肺移植の手術は簡単に進められるものではありません。

しかし、この肺気腫予備軍であっても、健康診断の結果は問題がないことが多いのです。初期症状は軽い息切れがある程度で、レントゲン検査でもほとんど異常が見つかることがありません。

健診結果は優良だったけれど、最近なぜか息切れするようになった……。そんな場合には、一度内科や呼吸器科、禁煙外来などを受診して禁煙相談をされるとともに、呼吸機能検査を受けてみることをおすすめします。
 

タバコ・喫煙習慣も原因になるEDなどの性機能障害

そして、肺気腫のように命には関わらなくても、タバコが関与する怖い病気はまだまだあります。例えば、性機能。ED治療薬は模造品が出回ったり、1錠数千円で取引されたりといったニュースや事件もあり、性機能の問題を抱えている方の多さや、改善したいというニーズの大きさが分かります。

EDなどの性機能障害になってしまった場合、しかるべき医療機関で診察を受けた上で、適切な薬物治療を受けることは大切なことですが、そもそもなぜEDになったのかという原因や、タバコがEDと関係があることは、実はあまり知られていません。EDの仕組みは、簡単に言うとペニスの海綿体を充血させるための血流が不足することです。タバコは全身の血管をキュッと収縮させる性質があります。ED治療薬の多くは、血管を拡張させ海綿体を充血させやすくするものです。いわば、ED治療薬とタバコは正反対の作用を持つわけですが、このような性機能に関する影響も健康診断の結果には現れてきません。

もしかしてEDかも……という自覚症状が出始めた方は、治療薬をネットで探そうとしたりするのではなく、まずは禁煙を決断するのがよいでしょう。
 

親の喫煙が原因で起こる子の健康被害……喘息・副鼻腔炎・中耳炎など

「自分はタバコを吸っているけど、自分の身体なんだから勝手だろう」という方でも、ご家族や子どもの健康に影響があると知れば、喫煙し続けたいという気持ちが変わるかもしれません。

家族の喫煙と子どもの喘息や副鼻腔炎、中耳炎などには強い関係があることも報告されています。自分の何気ない一服が、子どもたちの身体に健康被害を及ぼしてしまうリスクは看過できないことではないでしょうか。また、喫煙者のパートナーは、非喫煙者のパートナーよりも肺がんになりやすいという日本の研究データも報告されています。これらの家族の健康状態やリスクについては、もちろん、喫煙者自身の健診結果では全く見えない大きなリスクです。

「うちの子どもは中耳炎になりやすい体質なのかなぁ……」という方がいましたら、是非、この機会に禁煙をご決断ください。

これらの他にも、脳血管障害や虚血性心疾患、糖尿病、胃・十二指腸潰瘍、そして、女性の方であれば、不妊や低出生体重児など、がん以外にも実に多くの病気をタバコは引き起こすことが知られています。いずれも健康診断の結果だけで事前にリスクが察知できるものばかりではありません。

「健康診断で異常なし」というのは嬉しいものだと思いますが、あなたの健康に関する事柄が、すべてがうまくいっているということを保証しているものではありません。

健康診断の結果を過信せず、そして、タバコが持つ様々な影響について十分に理解を深めて、少しでも早く禁煙を決断されることを、医師として強くおすすめします。
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