認知症の患者さんを抱える家族にとって、もっとも悲しい事実――。それは、おたがいに心を通い合わせることが難しくなってしまうこと。なんの脈絡もないことを口走ったり、一切の感情を失ったように感じられたり。元気な頃を知っている身近な人々には、これがなんともつらいのです。
共感することで心は近づく!
しかしこうした場合でも、ある方法によってコミュニケーションを取り合えることが、最近、わかってきました。米国で開発された「バリデーション」という手法です。
バリデーションは、米国のソーシャルワーカー、ナオミ・フェイルさんが生み出した療法。お年寄りの気持ちに共感し、そのまま受けとめることで、互いに気持ちを通わせることができます。
たとえば、お年寄りが夜中に突然、亡くなった自分の母親を呼び、泣き叫び始めたとしましょう。家族はたまったものではありません。「何を言っているの、お祖母ちゃんはとっくに亡くなったでしょう。今は夜中じゃないの」。ついこんなふうに叱りつけてしまったとしても不思議はないでしょう。
しかし、バリデーションでは、なぜお年寄りが泣いているのか、なぜ自分の母親を探しているのかを考え、その気持ちに共感しようとします。あくまでお年寄りへの敬意を忘れず、こちらの都合や筋を押し付けないことが大切。
気持ちを理解してもらえたことで、お年寄りの態度はじょじょに穏やかになり、次第にコミュニケーションがとれるようになります。
基本テクニックを覚えよう
▼テクニック1・アイコンタクト
まず、お年寄りと同じ高さの目線になるよう、かがんだり、座ったりします。誠意をこめて、お年寄りの目を見つめるようにしましょう。
▼テクニック2・リフレージング(繰り返し)
そして、お年寄りの言葉を繰り返し、「お母さんがいないの?寂しいの?」などと確認します。このとき、お年寄りの声の大きさ、抑揚なども合わせるようにするとよいでしょう。
▼テクニック3・レミニシング(思い出話をする)
お年寄りが、亡くなった母親を探していたら、「お母さんは何ていう名前?」「どんな顔?」「お母さんがしてくれたことはどんなこと?私にも何か手伝える?」などと記憶を呼び覚ますような会話をします。
さらに、背中をさすったり、頬の上のほうを軽く撫でたりして身体にそっと触れます。自分の気持ちを受け止めてもらうことで、お年寄りの気持ちは落ち着きついてゆきます(ただし、認知症が進んでいる場合は過度に触れ合あわないほうがよいケースもあります)。
14テクニックを知っておこう
具体的なテクニックは以下の通りです。
1.センタリング(精神の集中) 2.事実に基づいた言葉を使う 3.本人の言うことを繰り返す 4.極端な表現を使う 5.反対のことを想像する 6.過去に一緒に戻る 7.真心をこめてアイコンタクトをする 8.あいまいな表現を使う 9.はっきりとした低い優しい声で話す 10.相手の動きや感情に合わせる 11.満たされていない欲求に目を向ける 12.好きな感覚を用いる 13.ふれる 14.音楽を使う (NHK「生活ほっとモーニング」より) |
これまで認知症にかかれば、何も感じず、何も考えられないなどと思われてきました。しかし、認知症の世界にも、その人なりの感情や考え方が生きています。そしてそれは、その人の歩んできた人生や価値観などに裏付けられているもの。自らの認知症体験を書き記した「私は誰になっていくの?(クリエイツかもがわ) 」の著者、クリスティーン ボーデンさんが語っているように、「認知や感情がはがされていっても、本当の自分になっていく」だけなのです。
バリデーションの詳しい手法については、「バリデーション―痴呆症の人との超コミュニケーション法(筒井書房)」を参照してみるとよいでしょう。また、詳しいサイト「TENAコンタクト第19号(2003年4月)」もぜひ参照してみてください。互いの心をもう一度通わせるためのテクニック、あなたもぜひ覚えてみませんか?