大学生の就職活動/就職活動の準備

大学生にとっての「働くこと」の意味

大学生の「働くこと」とは、就職活動はもちろん入社後もずっと修正・改善し続けるもの。変化に適合しながら、さらに自ら機会を創って進化させるプロセスこそ、君にとっての「働くこと」なのだ。

執筆者:見舘 好隆

<INDEX>
  1. 先輩にとっての「働くこと」
  2. 自分と会社の「働くこと」
  3. 「働くこと」は状況によって変化する
  4. 「働くこと」は偶然である
  5. 大学生にとっての「働くこと」

先輩にとっての「働くこと」

先輩も君と同じく、かなり迷い、そして修正・改善している

先輩も君と同じく、かなり迷い、そして修正・改善している

働くことの意味とは何だろう。大学生になって将来を意識し始めた時、そして就職活動を始める時にいつも自分に問い続ける大きな問い。この問いを一緒に考えていきたい。

まず、先輩はどう考えているのだろうか。以下は先輩が就職活動において企業を選ぶ際に重視する点と、就職決定企業に決めた理由のランキングである。
出典:ディスコ「日経就職ナビ就職活動モニター調査」

出典:ディスコ「日経就職ナビ就職活動モニター調査」
 

調査結果から読み取れる特徴をみてみよう。

・仕事内容を最も重視
就活を始める前も終える時も「仕事内容が魅力的」がトップである。先輩たちはまず第一に仕事内容を重視しているようだ。

・大手・安定志向
「給与・待遇が良い」「福利厚生が充実」も上位にあり、特に就職決定時には「大企業である」「有名企業である」が急にランクインしている。不況により、学生の大手・安定志向が高まったためだろう。「将来性がある」もニュアンスは同じだろう。

・職場の雰囲気はやっぱり大事
「職場の雰囲気が良い」は数字はダウンしたものの、4人に1人は重視している。選考過程で触れ合った社員の人柄が、意思決定の要因になっているようだ。

・成長しなくちゃ
「高いスキルが身に付く」は欄外に消えているが、数値は18.4%と上がっている。不況にも耐えうる自分でありたい気持ちの表れだろうか。

・世の中のために働きたい
「社会貢献度が高い」が上位をキープしている。「世の中に影響力が大きい」は大手・安定志向にも通じるが、自分の仕事を社会に広めたい気持ちもあるだろう。

実際に働いている先輩の声も聞いてみよう。以下の数字は25~29歳の正社員に聞いた質問で「あてはまる」「ややあてはまる」を足した割合である(リクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2006」)。
出典:リクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2006」

出典:リクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2006」
 

調査結果から読み取れる特徴をみてみよう。

・まずは食うため
「生計を維持するため」「生活費を補助するため」「自由に使えるお金の確保のため」「将来に備えて貯蓄するため」が上位に集中する。就職活動における視点「大手・安定志向」が、よりリアルな表現になったと考える。

・成長しなくちゃ
「自分が成長するため」「視野を広げるため」「自分のスキル・能力を活かしたいから」など、自らを成長させる理由の割合が過半数。大学生が企業を選ぶ基準よりはるかに割合が高い。

・居場所がないと寂しい
「社会とのつながりや友人を得るため」が6割強を占める。大学生にはピンとこないかもしれないが、仕事だけでなく仕事に関わる人とのつながりはとても重要な意味を持つのだ。また「今の会社が好きだから」も約4割を占める。なぜ好きなのかはわからないが、就職活動における視点「職場の雰囲気が良い」にニュアンスは近いだろうか。

・仕事は実は楽しい
「今の仕事が好きだから」「働くことが楽しいから」も半数を占める。大学生が企業を選ぶ基準トップが「仕事内容」だったが、その割合より高い。仕事はやってみると意外と面白いのかもしれない。

・世の中のために働きたい
「社会に影響を与えたいから」「人の役に立ちたいから」も割合は小さいが存在する。

この2つの調査結果を俯瞰すると、働くことは仕事・収入・所属・成長・社会貢献の5つに分類され、就職活動が始まる頃、内定後、そして入社してから、個人それぞれにおいて変遷していることが読み取れる。

自分と会社の「働くこと」

会社の言いなりで働くのは辛い。しかしやりたいことばかりしてたら会社は潰れる

会社の言いなりで働くのは辛い。しかしやりたいことばかりしてたら会社は潰れる

働くことの動機の分類に、外発的モチベーションと内発的モチベーションがある(金井壽宏「働くみんなのモチベーション論」より加筆)。

・外発的モチベーション
外から他の人によって提供される報酬。昇給、ボーナス、昇進、表彰、人からの賞賛や承認、メンバーからの受容、リーダーによる配慮など。マイナスの報酬(例:賃金ダウン、降格、上司に叱られる、メンバーから除外される、リーダーから無視される)もある。

・内発的モチベーション
外からではなく、内から湧き出る・突き動かされる状態。達成感、成長感、有能感、仕事それ自体の楽しみ、自己実現など。

ここで金井先生も指摘しているが、どちらか一方に偏るのでなく双方を意識することが大切だ。例えば、報酬だけでなく報酬をもらうプロセスに目を向けてみること、逆に達成感だけに帰結するのではなく、報酬もその評価として意識することが大切となる。

双方を意識することとはすなわち、働く個人と、職場を切り離して考えてはいけないことも意味する。リンクアンドモチベーション代表取締役社長・小笹芳央氏は「会社の品格」の中で次のように述べる。

「外部適応(外部の市場に合わせること)だけにこだわれば、すべての仕事が儲けのための歯車にされてしまい、逆に内部統合(社員のモチベーションを高める)だけだと、みんながやりたい仕事をやろうとなって組織は崩壊します。仕事は、この2つの側面をバランスよくカバーしなければならないのです」

これはマネジメントの視点で、働く個人も同様に、自分がやりたい仕事だけを考えればの企業は外部適合できず潰れてしまうし、会社の言いなりになって働いたら今度は個人が潰れてしまうだろう。両方をつなげる、つまり自分がやりたい仕事が社会のニーズに応えていて、結果企業が儲かり自分も評価される職場であればベストだ。

「働くこと」は状況によって変化する

今は一人でも、将来には配偶者や扶養家族もできる。当然働く意味は変わる

今は一人でも、将来には配偶者や扶養家族もできる。当然働く意味は変わる

前述した通り、就職活動が始まる時から、内定した時、そして入社後において「働く理由」は変遷している。つまり働くことはずっと同じではなく、状況によって変化するようだ。

代表的な理論に、アメリカの心理学者マズローの欲求段階説がある。マズローは人間の欲求には順序があり、例えば1が満たされて初めて2が十分に発生すると指摘している。以下はアメリカの心理学者ローがマズローの欲求段階説を職業の観点から整理したものである(Roe A. 1956, The Psychology of Occupations)。

  1. 生理的欲求(生理的満足):食物、飲み物を得るため
  2. 安全欲求(安全と安定):住居、老後の貯蓄を得るため
  3. 社会的欲求(所属と愛情):職場への所属
  4. 尊重(承認と自尊心):仕事の成功による努力の効力感、職業に就くことによって得られる社会的地位
  5. 自己実現:仕事を通じての自己実現

内定を取る前と取った後では当然変わるだろうし、入社後も新人の頃と管理職になってからでは大分違ってくるだろう。

また、アメリカの発達心理学者ドナルド・E・スーパーは、キャリアの発達に役割と時間の考え方を取り入れた。役割は子供・学生・余暇をすごす者・市民や国民・労働者・家庭人・その他の7つであり、これらの役割が演じられる生活空間は家庭・学校・地域社会・働く場の4つに分類している(ライフステージ)。時間(ライフスパン)は以下の5段階となる(Donald E. Superほか 1995, Life Roles, Values, and Careers: International Findings of the Work Importance Study)。

1. 成長(0~14歳)
家庭や学校での経験を通じて、職業への関心が高まる時期

2. 探索(15~24歳)
高等教育や課外活動、アルバイト、就職活動など、試行錯誤を伴う実践を通して職業が選択されていく時期

3. 確立(25~44歳)
自分の適性や能力と、現実の仕事とのすりあわせ。安定して昇進することもあれば、逆に不一致もしくは不満足により転職することもある

4. 維持(45~64歳)
キャリアにおける成功が得られた場合、それを維持しつつ、自己実現を目指す

5. 下降(解放。65歳以降)
いわゆる定年退職の時期。職場つまり居場所がなくなる脱力感を克服するため、新しい役割を開発する時期

なお、それぞれのスパンの間には転機(トランジション)があり、大学生の就職活動はまさに探索から確立への転機の真っただ中。スーパーは転機にも成長~下降のプロセスがあるとした(ミニサイクル)。以下はスーパーが示したこの時期の転機を、私が大学生の就職活動に書き換えたものである。

1. 成長:自己分析
2. 探索:企業研究(会社説明会やOB・OG訪問など)
3. 確立:志望企業の絞り込み
4. 維持:内定企業の再確認、意思決定
5. 下降(解放):次のステップへの勉強、準備

スーパーが指摘するように、働くことは自分の役割や生活空間はもちろん、年齢(発達段階)によって全く違うし、その過渡期にはさらに変化することがわかる。特に女性であれば、結婚や出産、育児によって否応なしに役割や生活空間は変化するだろう(男性も配偶者のキャリアにおける状況変化を理解し、支援することが必須となる。当然逆もあり得る)。

「働くこと」は偶然である

幼き頃、どうなるか分からないことにワクワクしたはずだ。将来が無限であることを楽しもう

幼き頃、どうなるか分からないことにワクワクしたはずだ。将来が無限であることを楽しもう

そもそも、働くことは計画してそのままプラン通りに行くものなのだろうか。就職活動を経験した大学の先輩を始め、両親や友人知人など社会人の話を聴いても、学生時代にプランした働くことが計画通りできた話はあまり聞いたことはない。この記事を書いている私でさえ、大学時代にまさか大学教員になるなんて微塵にも思っていなかったし、前職のインターネットプロバイダに至っては学生時代にインターネット自体が世の中に存在していなかった。

そんな不確定な未来に向けて、まだ働いた経験がない大学生が働くことをプランする方法はただ1つ、記事「自己分析」の「未来を分析する」で述べた通り、やってみるしかない。そんな自分の将来を切り開く出来事を、自発的に生み出す理論がある。スタンフォード大学教授・クランボルツが示した「計画された偶発性」という理論である。クランボルツは「計画された偶発性」を生み出す5つの鍵を示している(クランボルツ『その幸運は偶然ではないんです!』の内容を元に筆者が作成)。

1. 好奇心:新しい学習機会の模索
2. 持続性:めげない努力
3. 楽観性:新しい機会を「実現可能」ととらえる
4. 柔軟性:信念、概念、態度、行動を変える
5. リスク・テイキング:結果が不確実でも行動に移す

また、脳科学者の茂木健一郎氏は、幸運に出会う能力「セレンディピティ」を生み出す5つの鍵を以下としている(『BRUTUS』2007年2月号「特集 脳科学者ならこう言うね!」)。

1. まず「行動」する
2. 普段と違っていることに「気づく」
3. 何が起こっているのかを「観察」する
4. それを「理解」する
5. そのきっかけを生かして自分の望んでいることを「実現」する


まさにリクルート創業者・江副浩正氏の言葉「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」の実践である。特に茂木氏が指摘する5つの鍵は、いわゆるマネジメントサイクル、例えばPDCAサイクル(Plan:計画→Do:実行→Check:評価→Action:改善)やPDSサイクル(Plan:計画 →Do:実行→See:評価)であり、ケースウエスタンリザーブ大学の組織行動学者・デービッド・コルブの経験学習モデル(実践する→経験して学ぶ→省察・振り返る→概念化・言葉にする)にも似ている。

考えてみれば、就職活動を始めた頃に第一志望だった企業も、選考に落ちたとたんにその企業は第一志望でなくなる。また、企業研究しているうちに恋が冷めることもあるだろう。逆もまたしかりで、最初は見向きもしなかった企業が結果的に、自分が最も輝く企業なることもある。

つまり働くことは偶然によって生まれる。だからこそ意識的にその偶然が生まれるように行動し、その出来事を活かして働くことを修正・改善していくことが重要。変わることを認めること、そして変わる可能性に蓋をしないことが大切なのだろう。

大学生にとっての「働くこと」

自分が輝く働くこととは、一体何だろう。PDCAサイクルをクルクル回して答えを創り出そう

自分が輝く働くこととは、一体何だろう。PDCAサイクルをクルクル回して答えを創り出そう

以上の先行研究をまとめてみる。

・先輩にとっての「働くこと」
就職活動が始まる時から、内定した時、そして入社後において働くことは変遷している。

・自分と会社の「働くこと」
働くことは、自分がやりたい仕事だけでも、会社の言いなりでもダメ。両方をつなげることが重要。

・「働くこと」は状況によって変化する
働くことは自分の役割や生活空間はもちろん、年齢(発達段階)によっても全く違う。

・「働くこと」は偶然である
働くことは偶然によって生まれる。だからこそ意識的にその偶然が生まれるように行動し、その出来事を活かして働くことを修正・改善していくもの。

前述したドナルド・E・スーパーは「キャリアは、個人がそれを追求することによってのみ存在するものである」とし、キャリア発達にはアダプタビリティ(適応力)が必要だと述べている。

NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でも、多くのプロフェッショナルが、「プロフェッショナルとは、学び続けることができる人」と述べている。以下は例。

・「向上し続ける人」(漫画家・井上雄彦)
・「自分の可能性と限界を知っている人」(乳腺外科医・中村清吾)
・「最後までやり通すための努力を怠らない人」(水中写真家・中村征夫)
・ 「どんなに厳しい困難な条件でも結果を出す人」(燃料電池車開発・藤本幸人)
・「初心を忘れることなく実践し、将来の継続進化ができる人」(公務員・木村俊昭)

よって、大学生にとっての働くこととは、就職活動を通して構築しつつ、入社してからもずっと修正・改善しつづけるものだと言える。常に自分と会社両方の視点で、変化する職場や生活環境に適合しながら、維持するのではなくさらに進化させるために何をすべきを考え続けることこそが、大学生にとっての働くことなのだろう。

今は転機。今の自分が考える働くことは、将来の自分の働くことでは決してないこと。だからこそ自分の可能性に蓋をせず、自ら機会を創り出し、鉛筆と消しゴムを持ちながら、自分にとってベストな働くことを追求して行こう。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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