ハーバード・ケネディースクール(その1)
「教授が話をしない授業」
『ハーバード・ケネディスクールでは、何をどう教えているか』 杉村太郎/丸田昭輝/細田健一 ¥1,680(税込) 英治出版 |
「ハーバード大学におけるリーダーシップ教育~個人的体験から~」と題したパワーポイントをスクリーンに映して、ハーバード・ケネディースクールの「リーダーシップ」の授業が始まった。
「まず、この授業の参加にあたり、3つのルールを説明します。『発言する時は手を挙げること』『机上にある全てものを片付けること』、そして、一番大切なことは『30分間は退出しないこと』です。それでは始めます。」
シ~ン。細田先生はそこから一切話をしなくなった。
受講した人は20名ほど。先生の興味深い経験談が始まると思った私たちは、いきなり肩すかしを食らったのだ。重苦しい沈黙。さあ、どうしよう。5分ほどして一人が手を挙げた。
「このままではまずいので、私が自己紹介をします。(以下自己紹介)」
でもそれから話は続かない。どうしよう。私も手を挙げた。
「この授業は『リーダーシップ』です。だからこそ、この授業形式によって先生が何を伝えようとしているのかをディスカッションしませんか?」
そこからやっとみんなが動き出した。グループディスカッションは全体でやるのか、2グループでやるのか? 時間割はどうするのか? 最後に発表するのか? 先生にリーダーシップの話を聞く時間はどうするのか?などなど、なかなか全体構成が決まらない。カンカンガクガク15分ほど経ってやっと何となく方針が決まり、「じゃあこのルールで始めましょう」とディスカッションを始めようとしたところで、やっと先生が口を開いた。
「はい、終了です。20分ですか。結構早い方ですよ」
これが、細田先生が体験した、ハーバード・ケネディスクールの授業なのだ。実際の授業ではもっと紛糾したそうだ。そりゃそうだろう。国籍も文化も違うのだから。
細田先生は教えてくれた。
「集団(企業など)が直面する課題には二つある。『技術的問題』と『組織の死に至る問題』だ。前者は既存の問題解決ルーチンで解決できる。しかし、後者は難しい。『組織の死に至る問題』とは、組織内の文化や暗黙の了解、議論の前提、DNAに密接に関連していて、これを変化させない限り問題解決にならないからだ。必ず問題解決には『痛み』が伴い、『先送り』のメカニズムが働く。しかしながら、構成員は問題の存在を薄々は認識していることが多い。そして一番知っていただきたいことは、『組織の死に至る問題』の解決には、権威は役に立たないことだ。」
そうだ。今回の授業において言えば、先生は「権威」だ。先生がいるかぎり、今回の20分間に発生した「問題解決」への議論は生まれなかった。その「権威」が「権威」を放棄したからこそ、リーダーシップは発揮されたのだ。
その他、細田先生は以下のリーダーシップの理論を「体感」させてくれた。
- 「この状態を何とかしなくちゃいけない」ことを、構成員全員が認識すること。
- 問題解決方法をみんなで考えさせ、、問題解決に向かわせること。解決方法をリーダーは与えてはならない。
- 摩擦があるほうが望ましい。摩擦が無いのは「仲良しクラブ」の証拠であり、痛みが伴わない問題解決は存在しない。
- リーダーシップを阻害する「問題先送りのメカニズム」…手続き論(これは確かに厄介だ!)、無視(いるんですよね、一人や二人)、責任転嫁、攻撃(痛みが発生する人から)など。
- 一人ではリーダーになれない。パートナーが重要。
- 目的を常に考えること。他人が同じ目的を認識しているかはわからない。混乱を抑止するためにも。
うーむ、垂涎の授業である。
※次のページで、ハーバード・ケネディースクールの例を引き続き、紐解く!
※カルロス・ゴーン・日産自動車社長が手掛けた、「日産リバイバルプラン」は、リーダーシップ実践例の代名詞だ。先日の「SmaSTATION-5」で彼が語った「成功する組織のキーワード」は以下。リーダーシップの大切なファクターでもある。もっと詳しくは記事「リーダーシップって何?」を読むべし!※「SmaSTATION-5」にカルロス・ゴーン社長が出演したレポートが載ってるよ。バックナンバー→#193:2006年2月18日放送分→トクベツキカク
- 透明性
- コミットメント
- 社員への動機付け