働くことは尊いとか、かっこいいということだけではすまない
『白い巨塔』 『ひまわり』 『GOOD LUCK!!』などを手掛ける「視聴率が取れる」脚本家、井上由美子さん。彼女のインタビューで、印象的な言葉があった。「(『白い巨塔』について)財前は、悪いこともするけれど、その中にある彼自身の悲しみを書きたいなと思ったし、逆に、里美の理想を追求する姿は立派だけれども、それが周りの人を苛立たせたり傷つけたりする。優しさが人を傷つける、という二面性をこのドラマでは書きたかった」
(出典:『日経ビジネス』2004/6/14号~ひと列伝)
働く人を描くことをテーマにしてきた井上さんは、シンプルな勧善懲悪ではない、人の「二面性」を描こうとしている。確かに現実における働き方もそうだろう。いつも正義だけを前面に打ち出して仕事はできない。上司の機嫌やクライアントのわがまま、厳しい予算や納期など、あらゆるマイナスの要素が自分の仕事に変容のプレッシャーを与える。そしてそれは働くスタイルに影響を与える。働き方に一貫性が無くなり、自分ではとてもみっともない働き方だと思いつつ、それでも前に進んでいかなくてはならない現実からは、逃げられない。
「働くことは尊いとか、かっこいいということだけではすまない。むしろ、しんどかったり、かっこ悪かったり、仕方なかったりする。でも人は何らかの形で働き続けていかなければならない。働く人を描くことは、人間そのものを描くこと。つらさも喜びもひっくるめて、その姿に迫りたいと思った」
(出典:『日経ビジネス』2004/6/14号~ひと列伝)
私はきっと、入社後は当然正義を貫くがすぐ壁に激突し、現実へと舵を取ったのだろう。『白い巨塔』に例えるなら、最初は私は里見だったが、自分らしく働くことに諦め、途中で財前に変容したのだろう。結果、心の中の里見と対峙しリスペクトも感じつつ、財前である私は悩む。ああ、私も財前のような人生なのだろうか。かっこ悪くてもいい、仕方なくてもいい、自分のスタイルで働いていきたい。でもそれは不可能なのだろうか。
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