会社に貯えがあったら人員削減すべきではない?
利益剰余金は会社の「貯え」?
ニュースによく出る「雇用関連」の情報。雇用問題にはさまざまな議論がなされていますが、その中のひとつに「利益剰余金のある会社は、たくさん会社に貯えがあるのだから、人員削減するのは言語道断」というもの。確かに、たくさんの貯えがあるのでしたら、人員削減する必要はないような気がしますが……。今回は会社の「剰余金」について、わかりやすく解説します。
■利益剰余金
「利益剰余金」とは?2つに区分される「剰余金」のひとつ
経理の仕事に携わる方ならご存知かと思いますが、ここではまず、「剰余金」とは何であるのかを復習しておきましょう。
「剰余金」とは、「貸借対照表」の「純資産の部」の一部として存在するもので、「利益剰余金」と「資本剰余金」の2つに区分することが出来ます。「利益剰余金」とは会社が活動して得た利益を源泉とするもの、「資本剰余金」とは増資などの株主からの払込みに係るものから発生するもの、とされています。
さらに利益剰余金は、配当をする際に会社の財産を食いつぶさないように積み立てる「利益準備金」や、特定の目的のために積み立てる「積立金」、その他の会社の利益の蓄積部分である「繰越利益剰余金」などから構成されています。
まとめると、「剰余金」とは株主から払込まれたもののうち資本金以外のものと、会社が本業で得た利益のうち特定の目的のために積み立てているものや、使用目的が未確定のものから成るということが出来ます。いずれにせよ会社の貯えですから、これを使って雇用に役立てよ!というのが今回の議論の骨子だと想像することが出来ます。
剰余金の使い道は「雇用維持」にも回せる?
さてさて、「剰余金」の出所は「株主」と「利益」とで異なりますが、会社が何かを貯めているところ、ということが分かってきました。それではこれら「剰余金」を雇用維持に役立てるべく、検討していくことにしましょう。剰余金の実体は「会社の資産部」にある
さて、雇用維持のために使うべく「剰余金」を探してみましょう。「剰余金」を貸借対照表で見つけることが出来たように、この「剰余金」の実体もすぐに貸借対照表から見つけることが出来ます。実は、会社の持つ財産を表す「資産の部」に、この「剰余金の実体」が潜んでいるのです。仮に、「剰余金」の合計が300であれば、「資産の部」500のうち300が「剰余金」ということになります。めでたし、めでたし。……と、そう簡単にはいきません。資産には様々な勘定科目があります。「現金」「預金」の他に、「棚卸資産」「建物」「土地」「電話加入権」などなどです。これらのうちどこかの合計300が「剰余金の実体」なのです。資産500の内訳すべてが現金の会社であれば現金300が剰余金と言えますが、現金20、棚卸資産180、建物300で都合500、などという場合には、「現金と棚卸資産、建物の一部」が剰余金の実体とも言えますし、「建物」のすべてが剰余金の実体とも言えるのです。
賃金は現金払いが原則
賃金は現金払いが原則
もらう方も、通貨以外では生活がかなり困難となることは想像に難くありません。剰余金に相当する現預金が無い会社は、どうすることもできないのです。
会社の資産をたやすく処分するわけにもいかない
「建物が分けられないならば、売ってお金にすれば良い」という意見もあるかもしれません。確かに、保養所など会社の経営上「どうしても必要」と言えない資産であればそれも可能でしょう。でも、工場が生産に必要な機械を売るわけにはいきません。売却してしまえば、事業の継続が困難になり、やがて倒産に至ります。そうすれば、さらに多くの失業者を生んでしまうことになります。現預金だってそうそう使えない
いくら会社に現預金があるからと言っても、それは買掛金の決済や借入の返済など「運転資金」として必要な部分があります。これらを差し引いた残りが「雇用の維持」に回せるお金となってきます。持っているお金を全部使っては、会社がつぶれてしまうのです。「剰余金」だけに答えを求めるのは難しい
色々検討してきましたが、結論としては「どうやら難しい」ということが出来そうです。現実として剰余金相当額の現預金あるいは処分可能な余剰資産を持っ ている会社はおいそれと無いでしょう。そもそも剰余金は会社の安定や成長のため、株主に対する配当のために存在するものです。人材を解雇した会社を責めるのは簡単です。しかしながら、その会社を責めたり、会社の剰余金だけに雇用不安の答えを求めるだけでは問題は解決しません。冷静な議論の下、様々な力を結集して問題の解決に当たるべきではないでしょうか。
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