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なぜ利用者や家族の信頼を失ってしまうのか

利用者やその家族からの苦情を聞いていると、事業所、職員の対応のまずさから信頼を失い、苦情につながるケースがあることを感じます。特に気になる2点から、信頼関係を損なうパターンについて考えてみます。

執筆者:宮下 公美子

信頼を失う2つの原因

私は今、介護サービスについての苦情を聞く立場にあります。利用者からの苦情を聞いていると、サービス事業者、介護職に対して感じることがいくつかあります。中でも気になるのが、説明・連絡が足りないケースが多いこと、面倒から逃げようとする姿勢が見られることの2点です。この2点によって、利用者やその家族からの信頼を失い、大きな苦情になるケースが目に付きます。

連絡
些細なことのように思えても、家族に連絡しておくべきことは多々ある

些細でも連絡すべきことはある

「説明・連絡不足」とは、たとえばこんなことです。訪問介護事業所で、いつも派遣しているヘルパーが休むため別のヘルパーが行くことになった。それを事前に連絡しなかった。デイサービスで、ある利用者が他の利用者とちょっと言い合いになったが、2人を引き離したら落ち着いた。だから特に連絡しなかった。あるいは他の利用者と接触して転んだが、どこも異変はなく本人も大丈夫と言った。だから連絡しなかった。あるいはショートステイで、家族から指定されたおむつの使い方では夜間尿が漏れるので、パッドを多めに使うことにした。しかし家族には特に了解を得なかった、などなど。

どれも些細なことだと思うかもしれません(私は一概に些細だとは言えないと思いますが)。その些細なことを、その時すぐに連絡をしておけば、おそらく苦情にはならなかっただろうと思われるのに、連絡をしなかったために結果として苦情になるケースが多々あります。

なぜ説明・連絡が足りなくなってしまうのでしょうか。一つには忙しい、ということがあります。利用者全員の細かいあれこれを全て家族に伝えようと考えたら、それは現実的には不可能でしょう。そこでどの情報は伝える必要があるかを、内容の重要度、利用者本人や家族の性格、事業所と家族とのリレーションの善し悪し等々から判断していく必要があります。

例えば、以前、他の事業所について連絡が遅いと怒っていたことがあったからあの家族には早く伝えておかなくては、あるいは、あの利用者は些細なことでも夜間不眠になりやすいと家族が話していたから、利用者同士の言い合いがあったことは耳に入れておいたほうがいい等、判断するわけです。

普段からの声掛けで「ガス抜き」を

こんなことは改めて言うまでもないようなことですが、できていない事業所は少なくありません。すぐに苦情にならなくても、こうした細かい配慮が足りないことによって家族に不満や不信が蓄積し、何か「こと」が起こったときに「前から、連絡が足りないと思っていた」「家族の意向を聞かずに決めることが多かった」といった不満が噴き出し、大きな苦情に発展する場合もあります。

とはいうものの、万全の気配りというのはなかなか難しいもの。日頃から、「気になっていることはありませんか」「何かご要望はありませんか」など、利用者や家族に声をかけ、不満や要望をためこませないよう「ガス抜き」をしておくことも大切です。聞かれないと気がつかない家族もいれば、聞かれないと言えない利用者、家族もいます。連絡を密に取っておけば、誤解や感情の行き違いも起こりにくいものです。

苦情になることが多いのは、普段、疎遠な家族か、逆に介護に熱心で思い入れが強い家族です。どちらも密な連絡によって、ある程度、苦情への発展を抑えることができると思います。

自信がないから面倒から逃げてしまう

次に「面倒から逃げようとする姿勢」。例えば、ショートステイやデイサービスなどで転倒、骨折などの事故が起きたとき、利用者家族に責められることをおそれているのか、すぐに連絡をして謝罪に行く、というアクションを取らない事業所のなんと多いことか。

中には、事故があったという連絡を入れたきり説明も謝罪も行わず、家族が事故原因を問い合わせてくるまで放ったらかしという事業所もあります。これこそ「説明・連絡不足」を通り越しており、面倒から逃げているといわれても仕方がないと思います。

本来であれば、事故があったらすぐ家族に事故があった旨の連絡を入れ、原因がどうあれ、事業所内で事故が起きてしまったことについて家族にお詫びします。同時に、病院搬送など必要な対応を行い、病院で家族と落ち合う、あるいは事業所が受診に付き添って、一両日中に、家族に事情説明と、必要に応じて正式な謝罪を行うなどの対応が望ましいと思います。

しかし、このような対応をする事業所ばかりではありません。ではなぜこのような対応をしないのか。利用者の苦情を聞き、そして事業者側の釈明を聞くと、「洞察力」「共感性」「知識・情報」「アセスメント力」「介護技術力」「コミュニケーション能力」「柔軟性」等、様々な面での不足があることを感じます。

アセスメントがきちんとできていなかったから、歩行不安定な利用者に対して適切な介護体制が取られていなかった。介護技術力が不足していたから、歩行不安定な利用者を適切に介助できていなかった。知識・情報が不足していて、そもそも歩行不安定だと認識していなかった。歩行不安定だと認識していながら、どういう状況の時に特に転倒の危険があるか見抜く洞察力がなかった…等々の不足があると、なんとなく自分達の介護に自信を持てず、事故が起こると、「しまった」という思いから、「家族に責められる」と防衛的になりがちです。

失った信頼を回復するのは難しい

ここで、利用者家族がどのように感じるかに思い至る共感性があれば、それでもまずは謝罪しなくては、と思えるかもしれません。コミュニケーション能力が高ければ、連絡を取り、なんとかわかってもらおうと努力するかもしれません。しかし、その全てが不足していたら、何か言われるまで黙っていよう、そのまま何も言ってこなかったらラッキー、と考えてしまうのではないかと思います。

これは、大きな苦情につながりがちなパターンです。初期対応が遅れると、全てが後手後手に回り、その後挽回しようと努力しても、その努力は家族に認められにくくなります。家族が初期対応の不備から事業所に対して持った不信感をぬぐい去るのは、簡単ではありません。努力しているのに認めてもらえず家族から責められ続けると、事業所側もストレスが溜まっていきます。そして、もういい加減にしてほしい、という思いが必ず家族に対する言動に表れます。そうなると、修復が難しいほどこじれてしまうこともあります。

信頼関係を築いておけば理解を得やすい

一方、ふだんから利用者家族とコミュニケーションを取り、いい関係を築いていたら、あるいは自分達の介護に一定の自信を持っていたら、あるいは、事業所ができることとできないことをきちんと利用者家族に伝えていたら、状況はまったく違ってきます。事故が起こったあと、きちんと事故前後の事情を説明し、行っていた配慮を伝える一方で不足があった点について率直に謝罪することができるはずです。

多くの家族は、事故を100%防ぐことができるとは思っていません(思っているとしたら、そう思わせたままサービス提供していることを事業所は反省すべきです)。事業所が日頃から、考えられるリスクとそれに対する自分たちの配慮、取り組みを家族に伝えていれば、事故になったとしても、まず家族は必要以上に事業所を責めることはありません。家族も事故リスクをわかった上で、サービスを受けているからです。その上で、事故の状況を包み隠さず説明し、非があった部分を認めて謝罪すれば、ひどくこじれることはほとんどないでしょう。

苦情を回避するには、介護に求められる様々な能力を総動員していく必要があります。時には、「どうすれば苦情にならないか」という観点からさかのぼって、日々の介護で心がけなくてはならないことは何かを考えてみるのも一つの方法ではないかと思います。

※2009年10月からのサイトリニューアルを機に書いた記事、「宮下より~8年間ガイドを務めてきて」もぜひご覧ください。
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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