ほっとできる場所をつくりたい
ただでさえあわただしいサービスの中で、このデイはなぜ、あえてお茶の好みを聞き、個浴にこだわり、そしてマナーをも大切にしているのでしょうか。こだわりのわけを、この居心地のよいデイサービス、「東電さわやかデイサービスかもめ」(神奈川県横浜市)の施設長、江口和子さんに尋ねてみました。江口さんは、訪問介護のヘルパー、介護施設、訪問入浴、そしてケアマネジャーの仕事を経て、このデイサービスの施設長に就任した介護のベテランです。
「施設だと仕事に追われて、入所者さんに何か頼まれても『ちょっと待ってね』と答えることが多くなりがちです。入所者さん、利用者さんは人生の大先輩でしょう。失礼のないように接したいのにそうできず、つらいなぁと思うこともありました。自分で施設を運営できる立場になったら、全員をまとめて扱うような集団ケアの場にはするまい。絶対に、ほっとできる場所にしよう。そう思っていました」
タイムスケジュールを頭に入れて無駄な動きを省く。時間に追われても気ぜわしさを態度に出さない。江口さんがスタッフに求めたそんな努力が、ゆったりした空気感を醸します。そして、利用者を敬う気持ちは丁寧なマナーという形になり、居心地のいい場所にしたいという思いは、自宅のように好みの飲み物を選べる配慮に。江口さんの長年温めてきた理想がそうした一つ一つに表れているわけです。
肌触りのいい木製の浴そうは、利用者に好評。このほかに2つの個浴の浴そうがある |
「どんなかたにも必ず残存機能はあります。言葉も反応もほとんどないようなかたでも、個浴でゆったりと湯船につかると明らかに表情が和らぐんです。やはり満足度の高い個浴でお風呂を楽しんでいただきたいですね」と江口さん。浴そうの一つは高齢者には親しみの深い木製浴そう。そんな配慮も利用者には好評だと言います。
重介護の利用者を、機械を使わず個浴で入浴させるのは、スタッフには負担が大きいはず。にもかかわらず、スタッフが気持ちよく汗を流しているのは、江口さんのそうした思いに共感しているから。江口さん一人の「理想」ではなく、それをスタッフみんなで共有しているわけです。
「当社の9カ所のデイサービスでは、それぞれに工夫をこらして運営していますが、ここ『かもめ』はスタッフ同士のコミュニケーションのよさを感じます。だからこそ、利用者さんに目がしっかり行き届き、いいサービスが提供できているのだと思います」と、各拠点運営をバックアップしている東電パートナーズ・総務統括長の首藤英俊さんは言います。
食事は、併設しているオープンキッチン形式の調理場で、近くのNPOがつくっている。昼前からいいにおいがただよい食欲をそそる |
「思いばかりがふくらんで。まだまだです」と江口さん。
次に訪れたときには、どんな理想が実現されているのだろう。そう思わせるデイでした。
>>次は「理想の介護をイメージできますか?」