●一切、拘束をしない施設
一切、拘束をしない、玄関にカギもかけないという施設に行ったことがあります。スタッフの数は決して多くはありません。しかし、たとえば痴呆の入所者が「家に帰る」と言って外にフラフラと出ていくと、事務職も含めた近くにいるスタッフの誰かが、すぐに付き添っていきます。
が、決して連れ戻したりはしません。施設の周りを1、2周散歩しながらさりげなく戻るように語りかけ、帰ってくるようにしています。こうしたことを数回繰り返すうちに、出歩きたがった入所者も次第に落ちつき、外に出て行かなくなると言います。
●入所者、スタッフの顔が穏やか
「ご家族から、私たち家族はありがたいけど、働いている人たちは大変よねって言われるんです。実際、息つく暇もないときもありますけど、いい介護をしているという思いが、支えになっていますね」と、ここのスタッフは言います。入所者もスタッフも、みな明るく、おだやかな表情をしていたのが印象的でした。
●拘束をしないために、ハード面も整備
この施設の場合、開設の時から、拘束はしないという明確な方針を持って運営していました。死角がない空間作り、転んだときにダメージが少ない衝撃吸収性の高いクッションフロアの採用など、「入所者が自由に行動すること」と「事故を防止すること」という相反する課題を、できる限り両立させるために、ハード面からきちんと考えた施設作りが成されていました。
そして、スタッフもそうした介護方針に賛同する人たちが集まってきている。そうしたことが、好循環を産んでいるとも言えます。
●長い目で見て拘束ゼロへ近づける
これまで日常的に身体拘束をしていた施設が、一朝一夕に、一切の拘束をやめるというのは難しいかもしれません。しかしは長い目で見て、施設の環境を整え、スタッフも意識を変える努力をしながら取り組んでいく。同時に、身体拘束を少しずつなくしていく。そうすれば、いつの日か身体拘束をしなくてすむ日が来るはず。つまるところ、施設運営者が「拘束は悪」と考え、なくす努力をどれだけできるか。そうした意識の問題ではないかと思います。
自分の親がベッドの手すりに縛られているところを見たとき、家族はどれだけ傷つくことか。自分の身に置き換えて考えたとき、拘束を少しでもいやだなと思うなら、きっと改善できるはず。
理想と現実は違うとあきらめず、拘束ゼロ実現を目指したいですね。
●関連リンク
「身体拘束ゼロ作戦」の推進について
身体拘束ゼロ作戦推進会議
身体拘束ゼロ シンポジュム
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