労務管理/雇用側の労務知識

4月・5月・6月は残業したほうが損する?なぜ損するのか

4・5・6月は残業やり損と聞きますが、正しくは3・4・5月の間。給料明細書が手元にあったら確認してください。控除の項目に、「健康保険料」「厚生年金保険料」とあるはずです。これらの金額がどのように決められるのかご存じですか。詳しく解説します。

小西 道代

執筆者:小西 道代

労務管理ガイド

残業しないほうがいい月がある?

社会保険料,決まり方

残業すると社会保険料が高くなる?

「4月~6月に残業すると社会保険料が高くなる」という話を聞いたことがあるかもしれません。健康保険料(40歳以上は介護保険料を含む)と厚生年金保険料を合わせて「社会保険料」と言います。

社会保険料は、入社したときの給与をもとに決まり、その後は、毎年1回、7月に会社が「算定基礎届」を提出して社会保険料の見直しをします。見直し後の新しい社会保険料は、9月~翌年8月までの1年間に適用されます。

社会保険料の見直しに必要なデータは以下です。
・4月~6月に支払われる給与の金額
・4月~6月に働いた日数
・4月~6月に会社から現物でもらったもの(通勤定期券や食事、住宅など)
「支払われる給与の金額」とは、基本給だけでなく通勤手当や残業代など、会社から支払われるすべての金額が対象となります。残業代も社会保険料を見直すときの金額に入るから、「残業すると社会保険料が高くなる」と言われているのですね。

「会社から現物でもらったもの」とは、会社が3ヶ月や6ヶ月の「通勤定期券」を本人に代わって購入して渡すときなどです。従業員にとっては、給料日に振り込まれたお金ではないため、「給与」という意識はありませんが、会社がお金を払っていることに変わりはありません。

また、社員食堂の定食が「一律300円」というとき、本来の定食代700円の差し引き「400円」も会社がお金を払っていることになります。社会保険料の見直しのときには、これらも「給与」として会社が従業員に支払ったものに含まれるのです。
 

「3月の残業」も多いと、社会保険料が高くなる

雇用契約書には給与の「締め日」と「支払日」が記載されています。「末日締めの翌月15日払」「20日締めの翌月25日払」など会社によって違いますが、社会保険料の見直しのときに使うのは「4月~6月」に支払日がある給与です。
<例>
締め日:末締め、支払日:翌月15日のとき
4月15日に支払われる給与は、3月1日~3月31日の勤務分
5月15日に支払われる給与は、4月1日~4月30日の勤務分
6月15日に支払われる給与は、5月1日~5月31日の勤務分
会社の「締め日」「支払日」によっては、「4月~6月」だけでなく、上記の例のように「3月」に残業したときも社会保険料が高くなることがあるのです。社会保険料を安くするため、残業代を押さえたいときは注意しましょう。
 

4月~6月に多く休むと社会保険料が安くなる?

残業,社会保険料

社会保険料の決まり方

「ノーワークノーペイ」の原則により、欠勤した日には給与が支払われないことが多いです。

給与明細に「欠勤控除」としてマイナスで記載されていたり、日割りで差し引いた金額が「基本給」に記載されていたります。休みが多い月は支払われる給与も少なくなるため、「4月~6月に多く休めば、社会保険料が安くなるのでは?」と考えがちですが、社会保険料の見直しには「働いた日数」も考慮されます。

働いた日数が17日未満の月は、社会保険料の見直しから外して計算します。4月~6月のうち「5月は欠勤が続いたために17日以上働いていない」というとき、4月と6月の2か月の給与で計算することになります。ただし、有給休暇で休んだ日数は給与が支払われているため、働いた日として計算します。
 

社会保険料が安くなると損することがある

給与から天引きされる社会保険料が安くなると手取り額が増えるため、トクしたように思います。社会保険料を安くするために4月~6月の残業を少なくしたため、7月以降の残業が増えてしまった場合、本当に「社会保険料を安く抑えたからトクした!」と言えるのでしょうか?

月々の社会保険料の金額にばかり目が向きますが、健康保険や厚生年金保険に加入しているからこそ、受けることができるお金もあります。
・傷病手当金、出産手当金
・老齢年金、障害年金、遺族年金
健康保険からは、
  • 病気やケガで働けなくなったときの「傷病手当金」
  • 女性の従業員が出産で休むときに「出産手当金」
を受けることができます。このときにもらえる金額は、社会保険料と連動しています。社会保険料を多く払っている人は、多くの手当金を受けることができるのです。

4月~6月の残業代を押さえて社会保険料を安くした人は、7月以降の残業が増えて大幅に給与額がアップしたとしても、もらえる手当金や年金の金額は、4月~6月の低い金額をもとに計算されてしまうのです。
<例>
4月~6月の残業代を押さえた社会保険料:36,660円/月
7月以降、残業が増えて残業代5万円/月となった
→残業代を含めた社会保険料:42,300円/月 ※5,640円/月のアップ

スキーで骨折して20日間欠勤したため、傷病手当金をもらった
4月~6月の社会保険料で計算:115,560円
7月以降の社会保険料で計算:133,340円 ※差は17,780円
月額5,640円安く抑えるために、いざというときの傷病手当金が17,780円も減ることになってしまいます。社会保険料は会社が半額を負担しているため、4月~6月の残業を減らせば会社負担分も安くなる、という会社側の気持ちは分かりますが、傷病手当金などのメリットもある従業員側が無理に残業代を意識した働き方をする必要はないでしょう。

なお、厚生年金保険からは、
  • 65歳を過ぎてもらえる老齢年金
  • 厚生年金に加入している間に障害状態となったときにもらえる障害年金
  • 死亡したときに配偶者や子供がもらえる遺族年金
があります。これらの金額も健康保険と同様に、社会保険料と連動して決まります。
 

社会保険料の見直しが必要なとき

社会保険料,見直し

こんな時は社会保険料の見直しが必要

給与の金額によって社会保険料が決まり、健康保険や厚生年金保険から受ける手当金や年金の金額も社会保険料によって変わります。

給与から天引きされる社会保険料だけでなく、もらえる金額にも影響があると分かると、残業を多くした月や賞与をもらった分も社会保険料に反映されるべきでは?という考えも浮かびます。

賞与は、毎月の社会保険料とは別に、賞与の金額に保険料率をかけて天引きされています。この場合は、毎月の社会保険料が高くても低くても影響はありません。そして、厚生年金保険から年金を受けるときには、賞与から天引きされた社会保険料も加算して年金額が決められます。

では、残業を多くした月に社会保険料を見直すことはできないのでしょうか?

残念ながら、社会保険料を見直すことができるのは、以下の3つ要件すべてに当てはまるときだけです。
・昇給や給与改定によって、基本給や手当などの金額が変わったとき
・変わる前と後の給与額を比べて大幅な差(2等級以上)があるとき
・変わった月から3ヶ月間、毎月の働いた日数が17日以上あるとき
基本給が変わる場合は分かりやすいですが、通勤手当や住宅手当、扶養手当など、会社で決めたルールに従って支払っている手当があるときは、その手当の金額が変わるときも見直しのタイミングです。

引っ越しして通勤経路が変更になり交通費が変わったときや、子供が生まれて扶養手当が増えたときなどは、他の2つの要件を確認しましょう。通常は引っ越したこと、子供が生まれたことを会社に伝えれば、担当者が手続きをしてくれます。

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