「言葉」を軸に発想を広げる

“言葉”で発想する遠山さん 「匠(タクミ)と仕組み(シクミ)」という言葉で、プロの料理人のテクニックと、スタッフが簡単に調理できるオペレーションを両立させる考えを示している。
「特別、手帳やノートといった“秘密兵器”はないけど、物事を考えるときには“言葉”を大切にしています」と語る遠山さんは、まずはいい言葉を見つけ、その言葉に集中しながら、イメージを膨らませてゆくといいます。言葉は明確ですから、発想がズレたり・ブレたりしづらいのです。

例えば、「低投資・高感度」という言葉を毎日考えるうちに、遠山さんは「スープ専門店」という新業態に到達しました。食事を楽しんでいるときに偶然思いついたのではなく、日頃から抱えていたテーマに、食事というリラックスした状況が好影響を与え、「1人スープを飲む女性」のイメージが浮かんできたのでしょう。

社名の「スマイルズ」も、そんな発想法から生まれた社名だとか。

遠山:私が会社を作ったのは、横文字でカッコいい社名のIT企業が全盛だった時期。それに比べ「スマイルズ」は、ずっこけた名前ですよね(笑)。でもこの社名にしたのは、「スマイルズ」という言葉から、“ふわっとした人格”をイメージできたからなんですよ。

上層部を納得させた企画書『スープのある1日』

「女性が1人でスープを飲む」シーンに新業態のアイデアを得た遠山さんは、早速、企画書の作成に着手します。このときも以前『電子メールのある1日』を書いたように、スープが登場するさまざまなシーンを描いた『スープのある1日』という企画書にまとめています。(下記:『スープのある1日』より抜粋)

<プロローグ>
恵比寿の日本センタッキー・ブライト・キッチンの秘書室に勤める田中は、最近駒沢通りに出来た(仮称)Soup Stock の具沢山スープと焼きたてパンが大のお気に入りで、午前中はどのメニューにしようかと気もそぞろだ。
(→具沢山スープと焼きたてパン)

<店舗イメージ>
白と黒をベースにした、極めてシンプルな店舗は、さながら港区あたりの美容室かアパレルショップを連想させるが、メニューの内容が充実している自信の裏返しの様にも感じられて心地よい。ただの余計な装飾は、社会悪とさえ思えてくる。
(→低投資で高感度。シンプルな店舗)

遠山さんは、次から次に湧き上がるイメージを、A4用紙で全13ページに渡る企画書にまとめてゆきます。

“擬人化”でイメージ共有

横浜店
『秋野つゆ』さんに擬人化された店舗
遠山さんの企画書には「ストーリー仕立て」という特徴がありましたが、今回の企画書にはもう1つの工夫が盛り込まれていました。お店を『秋野つゆ』という37歳の女性に“擬人化”して表現したのです。

『秋野つゆ』さんとは、装飾よりも機能を好み、フォアグラよりもレバ焼きを好む・・・という女性。彼女には“個性”があり、『秋野つゆ』さんが好む店が、『スープ ストック トーキョー』の店舗なのだそうです。

店舗を“擬人化”することによって、社員全員でイメージを共有できます。例えば店舗のインテリアを決めるときにも、「このドアノブは、秋野つゆさんだったら、こっちのシンプルなものを好む」などと、判断の基準になるというメリットがあるのです。

ところで遠山さんは、どうして『秋野つゆ』さんを思いついたのでしょうか?

遠山:37歳というのは、企画書を書いた当時の自分に近かったからだと思います(笑)。最近、ある人から「『秋野つゆ』さんは、遠山さんの奥さんのことではないですか?」と言われましたが、確かにそうかもしれません。きっと「自分好みの女性」だったのでしょう。

新規事業を認めさせたプレゼンテーション

企画書を読んだ直後の「ちょっといいかも」という感覚を大切にしかった
遠山さんが『スープのある1日』を書き上げたのは97年の年末。日本経済は悪化の一路をたどり、マクドナルドなどが安値攻勢を仕掛け、外食業界全体にデフレの嵐が吹き荒れていた時期でした。

当然、外食産業へ新規投資するような雰囲気ではありません。遠山さんはそんな逆風の中、上層部に対しプレゼンテーションしました。ただでさえ、前例のない新規ビジネスに投資させるのは、とても難しいことなのですが・・・。

しかし遠山さんは、そのプレゼンテーションで見事に上層部を説得し、事業化の第一歩を踏み出したのです。一体、どんなプレゼンだったのでしょう?

>決め手は、あえて“語らない”プレゼン