無謀な選挙の意義
▲自作の選挙カー 最終日には看板が壊れた |
彼が感じていたのは、ビジョンを打ち出せない政治に失望した若者が、政治への関心を一層失ってゆく現実だった。そんな同世代や、もっと若い世代に、「政治は自分たちも参加できることを知ってほしい」と思い、自分の行動でそれを示したかったのだ。
それだけに「カネのかからない選挙」にこだわった。カネは無くても「誰にも政治家になるチャンスはある」と証明したかった。もちろん、もともと潤沢な資金があったわけではない。自己資金はなく、退職金はたったの数万円。活動資金は、友人や知人から集めたカンパでまかなった。銀行に同期で入社した仲間がカンパしてくれた約20万円が、最大の選挙資金だったという。
すべて自作「手作り選挙」
仲間が身銭を切って集めてくれた大切な資金、見栄など張らず節約できる費用は、徹底的に節約した。事務所は自宅のアパートを兼用し、選挙カーは知人に借りた車に、自作の看板を取り付けた。立て看板も外部に発注すれば1つ10万円はするが、材木とシールを購入し自作すれば、1万円も掛からなかった。まさに“手作り”の選挙だった。一説には地方議員の選挙活動費用は、約1,000万円も掛かるそうだ。しかし、田中議員が選挙管理委員会に報告した選挙費用は、100万円程度。手間さえ掛ければ、サラリーマンの貯蓄や退職金程度の費用で議員になれることを証明した。
「ヒト」の選挙
▲学生ボランティアなどが選挙活動を支えた |
しかし、最初から仲間に連絡して、お願いしてまで協力を求めようとはしなかった。たとえ友情で手伝ってくれても、理念や価値観を共有しなければ、一心同体の選挙活動ができないと考えた。
ひたすら、田中さんは1人、街頭演説を続けた。すると、噂を聞きつけ、その考えや情熱に共感した学生などが、ボランティアとして選挙活動を応援してくれるようになった。
田中さんは、演説が終わって事務所に戻ってからも、スタッフに自分の夢や政治家としての目標を熱心に語った。そうして、この活動に参加する意義や目的を訴え続けた。すると、それに共感した仲間が仲間を呼び、日増しに田中さんの選挙活動をサポートする同志が増えていったのだ。