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光で変わる、顔と情景

懐中電灯で顔を下から照明して人を驚かせたことはありませんか?顔に付く陰影で表情は全く違って見えるものです。それが最大限に生かされているのが能や歌舞伎と言えますが、今回はその効果に注目してみます。

中島 龍興

執筆者:中島 龍興

照明ガイド

光のあて方で表情が変わる?


写真1.
この季節になると精神的な涼しさを求めて、肝試しをされる方もいらっしゃるでしょう。懐中電灯で顔を下から照明して、人を怖がらせた経験も多いかと思います。

日常生活において私たちは下から光を浴びることはないため、特に懐中電灯などの指向性のある光で顔を照明すると、顔に付く陰影が異なるため全く違った顔の表情に見えるのです。それが人の場合、怖い顔になるのです。このように光のあて方によって人の顔やものの立体を適切に見せることを照明用語ではモデリングと言います。

以前の記事「ヒカリとキレイの意外な関係」でも顔の見え方についてはご紹介していますので、ご参照下さい。


写真2.
モデリングは日本でも昔から応用されていました。代表的なものは能面でしょう。例えば若い女性を表す小面(こおもて)は、一見無表情に見えますが、光のあて方によってその表情は様々に変化します。(写真1、2)

能楽師は面に当たる光の状況で、その場面を演じ分けることが出来るそうです。電灯照明以前は現代のように明るい舞台照明があるわけではありませんから、ほのかな光の中でいかに喜怒哀楽の表情を能面に出すかは、演出上、重要なことだったと思われます。しかし逆に蝋燭(ろうそく)や油のように揺れ動く光は表情に動きが得られやすい一面もあるようです。

歌舞伎の白塗りや隈取も光を受け、それがどのように観客に見えるかを綿密に考えられたものが、代々受け継がれてきています。ほのかな光でもより際立って見えるよう白塗りにして、隈取によってその表情を強調したと言われています。ここまで光のことを考えた先人達の知恵には驚かされます。

次の頁では、変化を楽しむ絵画の照明についてご紹介しています。
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