星が見えるビル
このビルから始まりました |
「寝室から星が見えるのです」。これは最初に電話で相談を受けた際の、彼の唐突な訴えでした。窓からの眺めが良いのかと思いきや、詳しく話を聞いてみると、彼は親から相続したビルの最上階に住んでおり、そのビルに欠陥があって天井が裂け、その隙間から星が見えたという話だと分かりました。
彼が相続した財産は、その欠陥ビルと借金だけで、現金はなく、修繕費どころかローンの返済もままならない状態でした。
相続財産の概要-なぜ相続放棄しなかったのか?
相続財産概要 |
ローン返済額が家賃収入を上回っていたため、彼の貯金が底を尽いてローンの滞納が始まり、途方に暮れた状態での相談でした。彼は一人っ子でしたが、父の後妻が全ての現金を相続し、彼には逆ザヤの“借金コンクリート”だけという悲惨な状態でした。
彼は、少しでも支出を減らそうと、借りていた自宅を解約し雨漏りのために空室になっていた相続ビルの最上階に引っ越してきたのですが、夜に寝ようと思って布団から天井を見上げた際に、星空が見えたことが大変ショックだったと話してくれたのでした。
私はさっそく、原状の正確な把握に取りかかりました。
相続した建物の状態
相続した建物の概要 |
お父さんは、この建物をどのような考えで管理してきたのでしょうか。亡くなってしまった今となっては、知る術もありません。
テナントや入居者に関する詳しい情報もありません。不動産会社に問い合わせても、「当社は入居者を斡旋しただけで管理は任されておりませんから」、「お父様は複数の不動産会社に仲介を依頼されていました。当社は専属ではありませんので……」と非協力的です。
見つかった入居者との契約書も、仲介した不動産会社ごとに異なる書式で、取り決めている契約内容も、全てばらばらでした。
私はコンサルタントとして彼と相談し、物件を修繕せずに売却する事にしました。しかし、そのままの状態ではとても売却できないため、次のような手を打ちました。
- 入居テナントの経営状態をチェックする。
- 不良な入居者やテナントと粘り強く交渉し、退去していただく。
- 適切な契約書を作成し、テナントや入居者と契約を結びなおす。
- 銀行と何度も折衝し、ローン債務を減免してもらう。
- 相続ビルの各種の権利関係を明確にし、売却できる状態に整える。
- 売却先を探す。
- 価格交渉をして売却価格を決める。売買契約を結ぶ。
- 彼の生活設計に合った転居先を探す。
すべてが無事に終わった後、彼が引っ越した小ぎれいな賃貸アパートで、彼とささやかな引っ越し祝いをしました。
「今だから言いますが、実は、父へのあてつけに、引き継いだビルの屋上から飛び降り自殺しようと思ったこともあるのです」と彼は、ほっとした表情で告白しました。そしてこれからの生活設計について、楽しそうに語ってくれました。まだ独身で、温厚な性格の彼に、やがて明るい未来が訪れるであろうことを、私は確信しました。
次は不良資産を引き継がないためにをご紹介します。