おすすめはラ・フォンテーヌ通り
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「オテル・ギマール」を過ぎて、しばらく行くと、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ通りに |
ギマールやその時代の建築家たちがデザインした高層アパートを堪能できるのが、ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ通り。左右に並ぶそれぞれの高層アパートは、緩やかな曲線を用いた外壁や窓の形、鉄製のドアや手摺といったデザインに存在感を感じることができるでしょう。いくつかの新しいデザインの建物もありますが、それらも街並全体に馴染み、雰囲気のある通りを造り上げているように感じます。多くの建物の外壁のわかりやすい場所に、その建物をデザインした建築家の名前、建築年が記されています。ギマールだけでなく、気になる建物があったら、誰のデザインで、いつ頃の建物か、チェックしてみても楽しいのでは?
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手前の3階建てが「オテル・メザラ」。窓の配置が特徴的 |
ラ・フォンテーヌ通りをしばらく北に歩くと、左手に見えるのがギマールの作品「オテル・メザラ」です。高層の建物の中に挟まれるように建つ3階建ての戸建住宅は、もともとは1階にタペストリーの店舗を設けた併用住宅。瀟洒な雰囲気を持つ鉄のフェンスや手摺、2階中央に設けたバルコニーを中心に左右に並べられた曲線を持つ窓など、比較的おとなしい外観表現のようにも感じましたが、インテリアにはアール・ヌーヴォーの特徴が随所に見られるとか。見学はできませんでしたが、写真に見ると、1階ホール天窓にはステンド・グラスを用い、また、店舗内には、ゆるやかなカーブを持つ鉄の階段が豊かな空間を生み出しています。
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「カステル・ベランジェ」は右手手前。鋳鉄製のアイテムがポイントにも |
しばらく歩くと、パリで最初のアール・ヌーヴォー建築である「カステル・ベランジェ」があります。ギマールがブリュッセルのオルタ邸に感銘を受けて帰国、その後、設計を変えてまでして完成させたと言われるアパートです。外観は、タイルやレンガ、砂岩などさまざまな素材で構成され、「オテル・メザラ」に比べるとかなり過激な雰囲気も。中庭の方に回ってみると、36戸すべて異なるプランとなっているためか、窓の並べ方や外壁素材の使い方なども勢いを感じることができます。忘れずにチェックしたいのは、鋳鉄製の玄関の門扉のデザイン。その奥のホール部分の壁面模様も見逃さないで。また、いたるところに、モチーフであるタツノオトシゴを見つけることができます。改めて驚くのは、この建物が普通に使われていること。門扉を眺めていたら、住人が犬を連れて外出する場に。こんな建物に暮らすことのできるなんて、シアワセな犬……です。
外観だけでなくインテリアもチェック
街歩きでアール・ヌーヴォーの外観デザインを堪能したら、内装や家具も見たくなるのでは? そんな人にオススメなのが、オルセー美術館です。印象派の絵画ももちろん素晴らしいものですが、アール・ヌーヴォーの展示コーナーでは、ギマールのデザインはもちろんのこと、さまざまなアール・ヌーヴォーの家具、食器や小物などの細かい細工や素材感を楽しむことができます。実際のインテリア空間を再現した部屋などは、壁面家具やベッド、テーブルなどのコーディネートの参考になるはずです。また、装飾芸術美術館でも素晴らしい室内装飾を見ることができます。
アール・ヌーヴォーのデザインを実際に取り入れるのは難しいかもしれません。けれど、その豊かで自由にも感じるデザインには、なんともいえない力があるように思います。たとえば、モダンでシンプルな部屋にアール・ヌーヴォーの要素を持つ、小椅子やテーブル、ランプなどを置いてみたり、手摺やフェンスなどの金物にデザインを取り入れてみてもいいでしょう。壁面や建具のポイントに、ステンド・グラスを用いるのも個性的です。
お気に入りのデザインを見つけたら、自分なりのコーディネートや演出方法を考えてみる、というのも旅の楽しみのひとつなのではないでしょうか?
【参考資料】
・世界デザイン史 美術出版社
・世界の建築・街並みガイド4 「フランス/スペイン/ポルトガル」エクスナレッジ
・ショトル・ミュージアム 「アール・ヌーヴォーの邸宅」下村純一 小学館
・建築史 近代の建築 京都造形芸術大学通信教育部
・地球の歩き方 「パリ&近郊の町」ダイアモンド社
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