不動産売買の法律・制度/不動産売買の手続き

重要事項説明書をめぐる4つの問題点

売買契約締結の前に宅地建物取引士が行う重要事項説明ですが、いくつかの問題点もあるようです。重要事項説明書について知っておきたいポイントをまとめました。(2017年改訂版、初出:2002年3月)

執筆者:平野 雅之


不動産の売買契約に先立って、媒介業者または売主業者は、その不動産を購入しようとしているお客様に対して重要事項の説明をすることになっています。

この重要事項説明をするのは宅地建物取引士ですが、説明内容のレベルは不動産業者によってだいぶ違うのが実情かもしれません。今回は主に、中古物件を購入する際における重要事項説明書の問題点などについて考えてみることにしましょう。


重要事項説明書の内容は?

重要事項説明書に記載して説明すべき内容は、物件の表示に関する事項に始まり、権利関係の事項、法令による制限に関する事項、設備などに関する事項、マンションであれば共用部分や管理に関する事項、契約の条件などに関する事項など、宅地建物取引業法によって細かく規定されています。

あらゆる点で何ら問題がなく購入予定者のニーズに合致した物件であれば、宅地建物取引業法で規定された事項をひととおり説明すればそれで事足ります。あえていうなら、たとえ宅地建物取引業法の規定を満たさなくても、何ら問題のない物件でトラブルが起きることは稀でしょう。

ところが、何らかの問題点を抱えている物件が実に多いのです。そして、その問題点の説明の仕方、あるいはその問題点の存在自体に気付くことができるかどうかについて、不動産業者の力量に差があるということもできます。


重要事項説明書の書式はいろいろ

まず形式的な問題ですが、重要事項説明書の書式には主に次の3つのタイプがあります。

1つめは汎用品を使っているタイプで、これには宅地建物取引業協会や全日本不動産協会などの業界団体が作成しているものと、民間会社の市販品があります。

2つめはその不動産業者独自の書式を印刷して作成しているタイプで、中~大手の媒介業者がこれにあたります。また、マンションや大規模な土地・戸建分譲のデベロッパーでは、その物件ごとに専用の重要事項説明書を用意することも多いでしょう。

3つめはパソコンでその都度(一定のひな型はあるでしょうが)作成しているタイプです。

それぞれに長所、短所があるのですが、これらの中で最も問題が起こりやすいのは、市販品を使用している場合だと考えられます。

前に述べたとおり重要事項として説明すべき内容は多岐にわたっているのですが、市販品では記入を簡単にしている分、必要な項目を見落としたり記入を省略しがちになったりしかねません。 少し古い書式のストックを使うと、近年に追加された項目自体がないこともあります。

何ら問題のない物件であればこれでも十分なときはありますが、「とにかく空欄を埋めればいいや」という姿勢でやっている不動産業者ではミスが起こりがちです。何らかの問題がある物件のとき、それを記入する欄が十分でないときもあるのです。

これは他の書式を使っていても同じといえば同じなのですが、何らかの問題があった場合に補足して重要事項説明書に別紙を加える不動産業者、それとは逆に空欄が残っていても平気な不動産業者などもあり、あくまでもそれを使いこなす人の問題だといえるでしょう。


重要事項説明のタイミングにも気をつけたい

次に重要事項説明のタイミングの問題ですが、宅地建物取引業法では「契約締結の前に」とされているだけです。

本来の趣旨では売買契約の前に重要事項の説明をし、その内容によってお客様が実際に契約をするかどうかを考える期間を与えてから契約締結に臨むのが正しいのでしょうが、実際には、契約と同時(時間的には契約締結の直前)に説明をしているケースが少なくありません。

手付金を用意して契約にいらっしゃったお客様に「重要事項説明を聞いてから契約するかどうかを決めて下さい」などとアドバイスすることはまずないのが実情でしょう。

可能なかぎり契約までに少し期間をおき、事前に重要事項説明書などを受け取って内容を確認しておきたいものです。


重要事項説明書作成上の問題点

さらに、重要事項説明書を作成、あるいはその前の段階として物件の調査にあたる営業担当者などのスキルの問題もあります。

この作成や調査にあたるのは宅地建物取引士でなくても誰でもよいのですが、問題点を抱えた不動産の場合、初心者は勿論、賃貸しか経験したことがない人にとって売買用の調査などは難しいほか、同じ売買でもマンションしか経験したことのない人にとって土地や中古一戸建て住宅の調査は問題点に気付きにくいものです。

ただし、ここでも何ら問題点のない不動産物件であれば、誰が調査などをしても結果的には同じなのですが……。

また、重要事項説明書の書き方や物件調査の方法について具体的な実践指導をする機関がないのも現状で、それぞれの不動産業者任せになっています。業界団体で研修会などもありますが、どうしても法令の変更点に関することが多く、個々の現場サイドでの指導には至っていません。

社内教育などがきちんとできている不動産業者(その出身者を含めて)と、そうでない不動産業者では自ずとスキルの差が生まれます。もちろん、社内教育などがなくても、宅地建物取引士として独学で熱心に勉強してスキルを高めている人もいるでしょう。

なお余談ですが、過去にトラブルを引き起こして行政処分を受けたり、裁判で負けたりしたことのある不動産業者が、その後に社内教育などの体制を充実させ、しっかりとした仕事をしているという例もあるようです。


重要事項説明を受ける側にも問題が?

最後に重要事項説明を受けるお客様自身の問題もあります。多くの人にとってそれまで経験したことのない高い買い物(売買契約)に臨んで、緊張してしまうのは仕方のないことでしょう。

そして緊張のあまり、重要事項説明で宅地建物取引士の話を聞いても、何をいわれたのかさっぱり分からないままで終わってしまうほか、契約が終わったら重要事項説明を受けたことすら覚えていない、なんてお客様も実際にいらっしゃるようです。

重要事項説明のときにはできるかぎり緊張を解いていただき、分からないことがあればどんどんと質問をするようにしていただきたいものです。


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不動産売買お役立ち記事 INDEX

重要事項説明を受ける前に読んでおきたいこと
重要事項説明の対象となる不動産の法律

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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