不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

避けたい債務不履行と損害賠償

不動産の売買契約で債務不履行が生じると、途端に面倒なトラブルへと発展してしまいます。無用な争いは避けたいものですが、債務不履行となるケースの概要や、それに伴う損害賠償について理解しておきましょう。(2017年改訂版、初出:2004年3月)

執筆者:平野 雅之

【ガイドの不動産売買基礎講座 No.91】

不動産の売買では、契約締結から残金の支払い(=物件の引き渡し)までに、ある程度の期間を要することが一般的です。

契約に定めた内容を、売主と買主がお互いにしっかりと守れば問題やトラブルが生じることは少ないのですが、何らかの事情でどちらかが契約内容を守れなくなれば、途端に泥沼化することになりかねません。

今回は不動産売買における「債務不履行」と「損害賠償」の問題について説明しますが、それに対応するのは民法です。細かな解説をすると初めての方には分かりづらい点が多いかもしれませんから、それぞれの要点を抜き出して整理しておくことにしましょう。


債務不履行の態様は3つ

売主または買主が、正当な理由がないままで契約の履行をしないとき(期日までに代金を支払わない、期日になっても物件を引き渡さないなどのとき)に「債務不履行」となりますが、その態様は次の3つに分けられます。

□ 履行遅滞
□ 履行不能
□ 不完全履行

契約当事者のうちどちらかの「故意または過失」によって債務不履行の状態に陥れば、契約の解除や損害賠償の請求、あるいは強制執行など、何らかの法的な手段を考えなければならない事態になるでしょう。


履行遅滞とは?

売主が約束した期日に建物を引き渡すことができるのに引き渡さない場合、あるいは買主が約束した期日に代金を支払うことができるのに支払わない場合など、これらはいずれも「履行遅滞」となります。

ただし、金銭の支払いに関しては「用意できなくて支払えない」という場合でも常に履行遅滞として扱われ、その原因が不可抗力によるときでも賠償義務を免れないものとされています。

契約の相手方が履行遅滞に陥った場合、相手の財産に強制執行をかけること、あるいは契約の解除や損害賠償の請求をすることができます。

ただし、履行遅滞になったからといって、即座にこれらの法的手段を取ることができるわけではなく、履行の催促をするなど一定の手続きを経なければなりません。


履行不能とは?

契約が有効に成立した後に、契約当事者どちらかの「故意または過失」によって、契約の履行が物理的にできなくなった場合は「履行不能」といわれます。たとえば、引き渡し前に売主の失火原因によって建物が焼失したようなときがこれに該当します。

履行遅滞が「引き渡せるのに引き渡さない」状態であるのに対し、履行不能は「引き渡したくても引き渡せない」状態なわけです。相手方が履行不能に陥った場合には、契約の解除とともに損害賠償の請求をすることができます。

なお、たとえば火災による建物焼失の場合、売主に責任(故意または過失)のある場合がこの履行不能です。隣家の火事による類焼や落雷などによって焼失した、あるいは放火の被害にあったなど、売主の責任でない場合は危険負担の問題となり、法的な取り扱いが異なります。

さらに、売買契約締結前に焼失していた場合、その事実を売主と買主がいずれも知らないままで契約をしてしまったとすれば、そもそもこの契約は不成立(無効)であり、履行不能とは別の問題になるでしょう。


不完全履行とは?

不動産ではなく一般の商取引の場合で考えてみましょう。たとえば、ある製品を100キロ注文したのに80キロしか納品されなかった場合などがこの「不完全履行」です。

しかし、不動産の場合にはなかなか考えにくいことでしょう。建物の引き渡しは受けたのに、トイレだけ引き渡されなかった、などということは通常ではあり得ません。

土地の面積や建物の大きさが違っていた、欠陥のある建物を引き渡されたなど「不完全な履行」はいくつかのパターンが考えられるものの、このようなときは不完全履行ではなく、一般的には「売主の担保責任」として異なる法律上の取り扱いを受けることになります。


損害賠償額の予定を定めておくことが一般的

債務不履行による損害賠償は、金銭によって支払われることが原則です。しかし、損害賠償額について何の取り決めもなければ、債務不履行と「相当因果関係」にある損害額を請求者側が立証しなくてはなりません。

そのため、損害額をめぐる争いを避ける目的(それと安易な債務不履行を防ぐ意味)で、あらかじめ損害賠償額の予定を売買契約書の中に定めておくことが広く行なわれています。

その額は売買金額の10%~20%程度ですが、実務上では「損害賠償額の予定は20%」と定めるケースが多いでしょう。「違約金の予定」の場合にも同様に扱われます。

この定めがあると、イザというときに損害額を立証する必要はなく、相手方の債務不履行の事実をもって損害賠償の請求をすることができます。

実際の損害額がこれより少なくても、逆に多くても、この予定額を変更することはできません。仮に裁判になった場合でも、裁判所はこの金額を増減できないことになっています。

なお、契約履行の期限(残代金支払い日・物件引き渡し日など)が到来していなくても、契約当事者どちらかの都合で(正当な理由なく)売買契約を解除しようとする場合もあるでしょう。

このとき、手付放棄または手付倍返しによる契約解除の適用期限を過ぎていれば(または相手側が契約の履行に着手していれば)、債務不履行とみなしてこの「損害賠償額の予定」を適用することが一般的です。

もっとも、手付金が売買代金の20%、損害賠償額の予定も同じく20%ならば、どちらが適用されても実質的に変わりませんが……。


過失相殺になるとき

債務不履行をした相手側に対する法的な手続きを行なう前提として、自らはいつでも債務を履行できる状態にしておくことが必要です。

仮に相手が履行遅滞に陥ったとき、自らも同じく履行遅滞に陥っていたとすれば、一方的に責任の追及ができるものではなく、過失相殺の問題となります。

考えてみれば当然のことでしょう。お互いに同額の損害賠償請求をしたところで何の意味もありません。

いずれにしても、一度契約した内容はお互いにしっかりと守ること。そして、守れなくなる可能性があるような安易な契約、無理な契約はしないことが大切です。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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