不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

登記を信じちゃいけないの?

不動産登記は、住宅などの売買をする際にとても重要なものです。ところが「登記を信じて取引をした者は保護されない」というのが日本の法律です。いったいどうしてそのようなことになっているのでしょうか?(2017年改訂版、初出:2004年10月)

執筆者:平野 雅之


今回は、不動産の権利登記に関する法律面でのご質問をいただきました。



question
先日、不動産に関する本を書店で立ち読みしていたのですが、「登記には公信力がない」と書かれ、さらに「登記を信じて取引した者は保護されない」というようなことが書かれていました。その前後の説明はちょっと専門的過ぎてよく分からないままでしたが、あとから気になって仕方ありません。これはどういうことなのか、分かりやすく説明してください。
(福岡県太宰府市 高田さん 男性)



answer
不動産の取引では登記がたいへん重要な役割を果たします。ところが、その登記を信じた者は保護されない、というようなことが書いてあれば、当然ながら不安になることでしょう。

契約書

登記内容を信じて契約しても、それだけでは保護の対象とならない

「公信力」という用語自体が一般的ではなく、とても分かりづらい面があるかもしれません。

「登記に公信力がない」とは、簡単に言い換えれば「登記された内容が正しいかどうかについて、国が保証をするわけではない」ということです。厳密にいえばもう少し深い意味もありますが……。

近年、法務局では登記事務のコンピュータ化が実施され、従来の登記簿謄本に代わって登記事項証明書(登記の種類、証明書の内容によって名称が異なる)が交付されるようになりました。

この登記事項証明書の最後のページには登記官の印が押されていますが、それは登記された事項を証明するためのものであり、登記内容が正しいかどうかは別問題です。

法務局へ登記の申請をしたとき、登記官は申請書類を形式的に審査し、不備がなければそのまま登記がされます。申請内容が正しいかどうか、その裏付け調査をするわけではありません。

つまり、不動産の権利をもつ当事者、あるいは第三者が何らかの意図で虚偽の申請をしたとしても、書類上の不備がないかぎり、その登記は受理されることになります。

真実の権利内容とは異なる登記がされている不動産があった場合に、その登記を信じて取引がされ買主が不測の損害を蒙ったとしても、法務局などが損害賠償に応じてくれるわけではなく、また目的どおりの権利を取得できるわけでもありません。

これがご質問にもあった「保護されない」という言葉の意味です。

たとえば、ある不動産の本当の所有者が高田さんであるにもかかわらず、登記記録には所有者として平野の名前があったとします。

あなたが登記どおりに平野が所有者であると信じて、代金を平野に支払ったとしても、あなたはその不動産の権利を取得できないことになるのです。それ以降は民事上の問題として争うか、あるいはそれが詐欺であれば刑事上の事件として扱われることでしょう。

取引

登記内容だけでなく、さまざまな情報をもとに安全な取引を行なうことが重要。そのために不動産業者の責任も重い

本来であれば不動産登記に「公信力」を認めて、取引の安全を図るべきかもしれません。

しかし、そのためには不動産の売買や贈与相続、その他権利の移動に関するものをすべて許可制にしたり、登記官に大きな調査権限を与えたり、登記申請者の権利証明を厳格にしたりするなど、何らかの手段が必要となります。

そうなれば、「取引の自由」に反する面も生じるため、現実的には難しいところです。それ以前に、各法務局で大幅に人員を増やさなければ対応もできません。

実際の契約にあたっては、媒介をする不動産業者が登記内容の調査をするのはもちろんのこと、現地での確認や権利の裏付け調査などをして、取引の安全を確保するよう努めています。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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