たいへん高額な住宅の売買。売主は少しでも高く売れることを願い、買主はできるかぎり安く買いたいものです。それでは、買主から売主に対して、積極的に売買価格の値引き(指し値)交渉をしてみるべきなのでしょうか。
(埼玉県さいたま市 彩の子さん 30代 女性)
結論めいたことを先にいえば、ケースバイケースで値引き交渉をするべき物件もあるし、値引き交渉をするべきではない物件もある、といったところです。
中古住宅では、物件がすべて違うのと同様に売主の状況もすべて違う!
また、住宅の相場が下落する一方だった頃には、売主が少しでも早く売ろうとして、きつい値引き交渉でも受け入れざるを得なかった時期があったことも事実です。
ちなみに、具体的な金額を提示して値引き交渉することを「指し値(さしね)」といいます。
その地域の不動産相場が上昇傾向か下落傾向かによっても違いますから一概にいうことはできませんが、相場が上昇しつつあるときには「値引き交渉には一切応じない」という強気の売主も多くいるでしょう。これは業者が売主の新築住宅でも、個人が売主の中古住宅でも同じです。
相場が上昇傾向に転換してからも、買い手市場だった頃の感覚のまま「値引き交渉が当たり前」「値引きをするのが売主の誠意だ」という考えをお持ちの買主もたまにいらっしゃいます。
そして、手当たり次第に「この物件はいくら引くの?」「あの物件は?」「じゃあこっちは?」という聞き方をされることもありますが、このような値引き交渉はほとんど無意味です。
値引けば買うのかどうかもあやふやな買主に対して、売主が真摯に応えることはできませんし、それ以前に買主と直に接する営業担当者自身が真剣に対応できません。
価格の設定にもいくつかのパターンがある
個人が売主となる中古住宅の例で考えてみましょう。売買契約が成立する相場はいずれも3,000万円だったとして、これを一般の中古市場へ売り出す場合に、価格の設定方法にはいくつかのパターンがあります。A.相場どおりに3,000万円とする
B.早期に売却する必要があるため2,800万円とする
C.値引き交渉があることを想定して3,200万円とする
D.金融機関の担保評価を有利にするため、表向きは3,600万円とする
Dの価格設定は意外に感じられるかもしれませんが、売買の事例が少ないエリアでは意図的に行われているケースが実際にあるものです。
金融機関による担保評価を高めに誘導することで、買主が購入代金全額(100%)に近いローンを組みやすくするための手段であって決して良いことではありませんが、この価格設定の背景を見抜くことができずに(あるいは意図的に)そのまま買主へ紹介してしまう媒介業者も存在するわけです。
これらの価格設定は売主個人の意図というよりも、売主から売却依頼を受けた媒介業者の主導によるケースが大半でしょうが、仮に3,600万円で売り出したDの売主が600万円の値引き交渉に応じたとして、はたしてそれは「売主の誠意」でしょうか?
あるいは、AやBの売主が値引き交渉に応じることなく、Cの売主が200万円の値引き交渉に応じて3,000万円での契約を受け入れた場合に、Cの売主のほうがAやBより「誠意がある」といえるのでしょうか?
少し回りくどい説明になってしまいましたが、値引きの有無、あるいは値引き幅で判断することの危険性や、その無意味さはお分かりいただけるでしょう。
新築物件の値引きの場合でも、当初の価格設定そのものに失敗して単に高過ぎただけのケースが多いものです。あるいは、通常の相場では売れない何らかの問題点を抱えているか、といったところです。
もし物件の状況を深く考えず、手当たり次第に値引き交渉をすれば、判断を誤る原因になるだけでなく、本当に誠意のある売主に対して不快な思いをさせることにもなりかねません。
大切なのは相場をしっかりと見極め(不動産相場や市場動向に詳しい第三者のアドバイスを受け入れることも必要です)、その物件がその価格で自分にとって価値があるものなのかどうか、あるいは価格がいくらなら妥当なのかを冷静に判断することです。
そのうえで、購入候補として絞り込んだ「自分が納得できる物件」に対して、真剣な態度で値引き交渉に臨むべきでしょう。また、真剣に購入を考えるのであれば、もともと妥当な価格の物件でも値引き交渉の打診をしてみること自体に問題はありません。
なお、値引き交渉をする際には、媒介業者を通じて売主宛の買付証明書などを提示することが一般的(中古物件の場合)です。
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