不動産売買の法律・制度/不動産売買の法制度

隣地の擁壁に亀裂を発見! どうすればいい?

隣の敷地との間に擁壁がある場合には、たとえ敷地外であっても亀裂などの状態を購入前にしっかりチェックすることが欠かせません。隣地の所有する擁壁でありながら改修の費用負担を求められるケースもあるのです。(2017年改訂版、初出:2006年5月)

執筆者:平野 雅之


隣の敷地との間に高低差がある場合などに築造される「擁壁(ようへき)」ですが、それが隣地のものであっても購入前に十分なチェックをしておかないと面倒なことになりかねません。



question
中古住宅を購入したのですが、当方の敷地よりも北側の隣地のほうが2メートルほど高くて、隣地の敷地内に擁壁が設置されています。それが築造された年は不明とのことですが、入居してしばらく経ってから細かな亀裂があることに気がつきました。隣地の人に聞いてみたところ、先方もそのときに初めて知ったとのことでしたが、このようなときは相手に対して改修の請求をすることができるのでしょうか。また、当方に負担が生じたときには、売主(個人の売主でした)や仲介した不動産会社に対して、損害賠償などの請求はできるのでしょうか?
(長野県 匿名 30代 男性)



answer
擁壁についてはいろいろと難しい問題が多く、ご質問のような請求ができるともできないとも一概にはいえない面もありますが、まずは現在の状態をしっかりと把握することから始めなければなりません。

亀裂があったといっても、それが以前からあったにも関わらず簡単に気付かないような程度のものなら直ちに危険があるとはいえませんし、最近になって急に広がったようなものであれば何らかの問題が生じている可能性もあります。

いずれにしても、一度は専門家の人に調べてもらうべきでしょう。

高低差の大きい敷地

高低差のある敷地は、上も下も注意が必要!

また、その擁壁がどちらの所有物なのかもきちんと再確認しておくことが必要です。一般的には高いほうの敷地内に擁壁が築造されていることが多いものの、必ずそうなっているとはかぎりません。

てっきり隣地の擁壁だと思い込んでいたところ、境界を改めて調べ直してみたら低いほうの自分の敷地内だった、というケースも実際にあるのです。

調査した結果によって改修工事の必要性が明らかになり、その擁壁が隣地の所有物であった場合には、当然ながら隣地の所有者または占有者(借地人)に対して改修工事の実施を請求することができます。

また、擁壁が崩落する危険性があるなど緊急性が高いときには、裁判所の仮処分命令を得て改修工事の実施を求めたり、相手がそれにすぐ従わないときには自己負担で工事をしたうえで、工事に要した費用の支払いを相手側に求めたりすることも認められます。

相手側に資力がまったくないと困ってしまいますが……。

しかし、隣地が所有する擁壁の改修工事であっても、その工事費用が必ずしも隣地の全額負担とはならないところに擁壁問題の難しさがあるといえるでしょう。


判例ではどうなっている?

民有地における擁壁の改修工事に関する過去の裁判では、「金額の多い少ないに関わらず、その所有者が全額負担するべき」とした判例がある一方で、「共同してそれぞれ同額の費用負担をせよ」という判例や、擁壁の高さを勘案して負担割合を定めた判例などもあるようです。

擁壁を所有する者の全額負担とならなかった(双方の負担とした)判例は、「擁壁によって危険性が回避される利益や、擁壁の必要性は双方にある」という考え方が根拠となったようですが、いずれにしても裁判をやってもどうなるか分からないような難しい問題です。

まさか「擁壁の所有者ではないほうの全額負担」とされることはないでしょうが……。

また、近年は裁判官も弁護士も裁判前の調停を目指す傾向が年々強くなってきているようですから、「擁壁を所有しないほうの隣地もそれなりに負担をお願い!」という事例が次第に増えていくかもしれません。

亀裂のある擁壁

隣地の擁壁の問題なら隣地が全額負担、とはかぎらない


損害賠償の請求はできる?

万一にも隣地が所有する擁壁の改修で負担が生じた場合に、売主や媒介業者に損害賠償の請求ができるかどうかも非常に難しい問題です。

売買契約の時点で既に亀裂などがあり、媒介業者が気をつけて観察すれば分かったはず、という場合や、売主が知っていながら黙っていたような場合には、損害賠償請求の対象となることもあるでしょう。

しかし、引き渡し後に生じた擁壁の亀裂の場合には媒介業者の注意義務違反とすることも難しいでしょうし、隣地の所有物に対する売主の瑕疵担保責任を問うこともできません。ただし、購入した自分の敷地に含まれる擁壁の場合は話が別です。

購入しようとする住宅の敷地の周囲に擁壁があれば、それが自分の敷地内である場合はもちろんのこと、隣地のものであっても慎重に調べなければなりません。

宅地造成の許可を得て築造された擁壁の場合には、管轄役所による検査などが適切に実施されているかどうかも事前に確認することが必要です。

なお、郊外の古い住宅地などでは擁壁が築造されずに隣地との間が崖地になったままの場合もありますが、その崖地に崩落のおそれなどがあれば、崖地部分の土地を所有する者がその責任と費用負担で擁壁を設置することが原則です。

ただし、この場合でも崖地の状態によっては応分の負担を求められるケースがあるでしょうし、敷地境界自体が崖地の途中であれば共同負担ということも考えなければなりません。

なお、隣接地における新たな宅地造成事業などで隣地との間に擁壁が築造されるような場合は事業者負担となるはずであり、擁壁工事費用に対する負担を求められることはないでしょう。


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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