世界遺産/インドの世界遺産

エローラ石窟群/インド

聖山カイラスに住むシヴァ神を祀るため、100年の期間とインド工芸の粋を集めて造られたカイラーサナータ寺院。今回はこの世界でもっとも美しい石窟寺院で有名なインドの世界遺産「エローラ石窟群」を紹介する。

長谷川 大

長谷川 大

世界遺産 ガイド

得意ジャンルは世界遺産・世界史・海外情勢・海外旅行・哲学・芸術等。世界遺産マイスター、世界遺産検定1級文部科学大臣賞受賞。出版社で編集者として勤務したのち世界一周の旅に出る。現在は東南アジアを拠点に海外旅行を継続しながらフリーの編集者・ライターとして活動。訪問国数は約100、世界遺産は約250に及ぶ。

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エローラ石窟群でインド美術にうっとりする

カイラーサナータ寺院。下に小さく見える人と比べると巨大さがわかる。この寺院、石を積み上げて造ったのではなく、岩を掘り抜いた「彫刻」。世界最大の彫刻ともいわれる ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院。下に小さく見える人と比べると巨大さがわかる。この寺院、石を積み上げて造ったのではなく、岩を掘り抜いた「彫刻」。世界最大の彫刻といわれることも ©牧哲雄

インド三大石窟(せっくつ=石の洞窟)といえば、アジャンター石窟群、エレファンタ石窟群、エローラ石窟群(いずれも世界遺産)だが、このなかで、彫刻の規模と美しさにおいて最高峰にあるのがエローラで、特に第16窟のカイラーサナータ寺院(カイラーサ寺院)は世界最高の石造建築のひとつといわれている。

今回はカイラーサナータ寺院をはじめとする34の石窟からなるインドの世界遺産「エローラ石窟群」を紹介しよう。

神すらその美に打たれたカイラーサナータ寺院

丘から見下ろすカイラーサナータ寺院。寺院のあちこちに精緻な彫刻が彫られている。エローラのほとんどの寺院は石窟の中にあるが、この寺院はほとんど露出している ©牧哲雄

丘から見下ろすカイラーサナータ寺院。寺院のあちこちに精緻な彫刻が彫られている。エローラの多くの寺院は石窟の中にあるが、この寺院はほとんど露出している ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院の上部に掘られた4頭の獅子像 ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院の上部に掘られた4頭の獅子像 ©牧哲雄

創造神ヴィシュヴァカルマは、ラーシュトラクータ朝の君主クリシュナ1世の祈りを聞き入れ、王のためにシヴァ神に捧げる寺院を建立した。完成させた寺院のあまりの美しさに、ヴィシュヴァカルマは自分自身でさえも驚いて、身震いしたという。この伝説の寺院がエローラ第16窟、カイラーサナータ寺院だ。

高さ32m、底面85m×50mのカイラーサナータ寺院は重い。玄武岩の黒のためか、下から山のように突き上げる構造のためか、その美はタージ・マハルの華麗な白と対極をなし、ひたすら重厚・荘厳だ。

 

山中をくり抜いて造られたエローラ石窟群 ©牧哲雄

山中をくり抜いて造られたエローラ石窟群 ©牧哲雄

カイラーサナータ寺院は、ヒマラヤの聖山カイラス(カイラーサ山)に住む世界の王(ナータ)=シヴァ神を祀るために建立された。ヒンドゥー教の寺院らしく、寺院の壁も天井も神々の彫刻や、ヒンドゥー教の神話『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』の場面を描いたレリーフで覆われている。たとえばシヴァ神とその妻パールヴァティーの結婚式や、パールバティーが戦いの神ドゥルガーと化して武器を投げつける様子、美の女神ラクシュミーや愛の神カーマの物語などが描かれている。

驚くのは、この寺院が石を積み上げて造られたものではなく、山を彫った「彫刻」であること。100年をかけてノミとカナヅチだけで山を彫り、掘り出された石はなんと20万トン。3階以上の多層構造で空中回廊まである巨大な彫刻ながら、壁は恐ろしいほど繊細なレリーフで埋め尽くされている。規模と繊細さが同居した、数少ない遺跡のひとつだ。
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