静岡、温暖な気候と地震大国の酒造り
2008年7月の洞爺湖サミット公式食事会の乾杯酒として饗されたことで一躍名が知れた静岡の「磯自慢」。日本酒好きの間では、その研ぎ澄まされた味わい、造りに賭ける信念は、それ以前から知られたところである。お蔵を拝見する機会に恵まれた。焼津港。遠くには富士山が。冬だけど暖かい海風が心地いい。 |
お蔵が位置するのは静岡県焼津市。12月はじめというのにすっきりと晴れ渡った空に海風がこころもち暖かく感じる。さすが駿河湾に面した温暖なお国柄だと実感。
港に続く広々とした道路に面した磯自慢のお蔵。
住所は『鰯ケ島』。
「ええ、昔は、鰯がたくさん獲れたらしいです。だからついた名前。うちの横の田子の橋は、焼津の発祥の地なんですよ」と説明してくださるのは、八代目寺岡洋司社長。
昭和24年に築港された焼津港だが、そのまえは砂浜だったのだとか。さぞかしたくさんの魚が獲れたことだろう。今では、焼津港はマグロ・カツオが、隣にある小川(こがわ)港は、サバ・アジが水揚げされている全国屈指の漁港を抱える地域である。
落ち着いたたたずまいのお蔵正面。 |
お蔵の前に立つ。
まるで料理旅館のように見えるしゃれた趣のあるお蔵のたたずまいに、「酒蔵としての風情がないでしょ?」と笑う社長。
蔵の前の大きな幹線道路は、平成元年(昭和64年)に地震対策非難道路として作られたらしい。静岡はそういえば地震大国でもあった。
レギュラー酒がおいしくないといけない
寺岡社長は52歳(ちなみに2009年1月20日には53歳になられている)。酒類食品商社に6年勤めたあと蔵に戻った。27年前になる。当時は350石。そこからのスタートだった。「磯自慢」の英語名は“ベイ・プライド”だとか。 |
「そう、まだ吟醸という言葉がなかったときですよ」と懐かしむ。
それから寺岡社長と長谷川社長のタッグで、めきめき磯自慢の名が知れ渡ることになるのだ。
「造りが杜氏さん以下3名で社員5名という規模です。現在は1500石。品質を保つためには2000石以下で維持していきたい。これがラインだと思う」とおっしゃる。
また、レギュラー酒がおいしくないといけないし、毎晩の晩酌の酒が美味しくないといけないというのが社長の基本の考え。これ、旨い酒を造るお蔵元からはよく聞く言葉。だけど実践できる蔵は案外少ない。
飲み手としてはこれほどうれしいことはない。