名刀・山形正宗は、硬水生まれの男酒



銘酒ぞろいの山形。なかでもバランスのよさとなめらかさが大好きで日ごろから飲んでいた「山形正宗」「水戸部酒造」にうかがった。新社長就任直後の訪問だ。

とても目立つ背の高い煙突が私を迎えてくれた。
将棋と山寺で知られた町、山形県天童市に水戸部酒造はある。

1898年(明治31年)に初代水戸部弥作によって創業。100年以上の歴史をもつ、山寺を源とする立谷川(たちやがわ)の伏流水と地場産米で、全量、特定名称酒を造る蔵だ。

今となれば「山形正宗」との初めての出会いは忘れてしまったが、ここ数年、私がお酒のセレクションをお手伝いする料飲店には、ほとんどといっていいほどおすすめしている銘柄だ。
理由は、味わいのバランスのよさとなめらかさ。料理を邪魔しない穏やかな旨み。飽きのこない後味。とくに伝統の日本料理を主にする店では、非常にウケがいい。品のいい旨みに、素材を生かした日本料理は、まさに基本の相性だからだろう。

白壁と煙突。お蔵の風景。11月初旬のこの日、雪が・・・。
東京、丸紅(株)を辞め、2000年10月に実家に戻り、この2008年11月5日大安吉日に社長に就任したばかりの五代目、水戸部朝信(とものぶ)さんは、現在36歳。引退した四代目はまだ60歳。

「ちゃんと動ける若い人間に早く継がせたほうがいいでしょ」とは、なぜお若いのに社長引継ぎをされたのかをうかがった四代目の答えだ。

「こちらに戻り、1年間修行しました。前の杜氏さんが高齢ということで辞めたのを機に自分で造りをしています。今年で8回目。冬場は6人のスタッフ(そのほかのときは2名、パートさん1名)で、450石全部が特定名称酒になります」と五代目。

このあたりは、山寺から流れる立谷川(たちやがわ)の流域で扇状地になっている。水が豊富な地区と少ない地区が明確に分かれ、桑や果実に向く土地と米に向く土地がはっきりと分かれるところなのだとか。昔から穀倉地帯は裕福で大きな家が立ち並ぶ。このあたりも例外ではないようだ。

歴史ある天井。美しいレリーフが今も残る蔵の中。
「バイパスから、うちの蔵寄りが水が硬い地域で、出来るお酒は“男酒”、あちら側が軟水で“女酒”なんです」とおもしろいことを教えてもらった。
山寺のある東から西へ流れる立谷川に南北垂直に走るバイパスが土壌や水の分岐点になっているらしい。

硬水から生まれるキレのある味わいだから、『名刀の切れ味「山形正宗」』というブランド名になったのだ。お蔵のある土地に来てみてなるほどと納得した。