私が育った越前福井は、海岸がちょうど日本海にむかって西向きになっているので、太陽が海に真っ直ぐどどーんと沈む姿を眺めることができる。
子供の頃は、越前海岸の高須の浜によく泳ぎに行ったものだなあ。朝から泳ぎっぱなしでぐったり疲れた体のまま、海に沈む真っ赤な太陽を眺め、あっというまに夏休みが終わることとか、海の先にはなにがあるのかとか、今までの人生とか(まだたいした人生ではないけど)を、幼いながら感慨深げに考えていたものだ。実に哲学的な子供だったなあ。
海を見下ろす段丘に酒米のたんぼが!
純米大吟醸『雲』 |
真っ赤な夕日と潮風に育てられたその米を、自家精米し、じっくり低温発酵して生み出したのが純米大吟醸『雲』だ。
「雲乃井」のメインアイテムで知られる(株)吉田金右衛門商店の銘柄。
中汲み斗瓶取りの生酒で原酒だけれど、口に含んだ瞬間から、福井の酒らしいなめらかさと清らかさと柔らかい旨味がひろがり、するすると喉の奥に落ちていく。大吟醸といっても華やかすぎないのもいい。
濃い口日本酒はちょっぴり舌に重い今日この頃
ここしばらくの流行りでもある生酒原酒(とくに無濾過)の多くはどうも強すぎ濃すぎで、私の舌にはちょっと重いのだが、やはり生まれ故郷の水が合うのか、福井のお酒の優しさがうれしい。これが「身土不二」というものだろうか。「『雲』という名前は、たまたま見つけた中国の掛け軸にあったものをそのまま使いました。雲乃井というブランドにもよく合うし・・・」と答えてくださる代表社員の吉田さん。たぶん田んぼ仕事で焼けてらっしゃるのだろう健康的で優しい笑顔が印象的だ。明治4年創業の同社は老舗であり福井の人気ブランドだ。
越前海岸の姫さざえが食べたいっ
『雲』を味わい、吉田さんの話をうかがっていると、夏の越前海岸でとれる小ぶりのさざえを食べたくなった。太平洋の荒波で育つさざえは波に負けないようにがっしりと角が長いけど、越前の優しい波で育つさざえの角はちいさく短く小ぶりなので「姫さざえ」と呼ばれているらしい。醤油を少したらしてつぼ焼きにすると、つるっと一息に出てきて香ばしいおつまみになる。小さいけど旨味がぎゅっと凝縮しているので、何個でもいけてしまう。潮風を受けた酒米だからというわけではないが、この『雲』を口に含んだ瞬間、越前海岸の潮のにおいが鼻の奥を吹き抜けるような気がした。同時に、子供の頃見た、あの大きな夕陽と日焼けした身体のけだるさを思い出して、ちょっと胸がきゅんとなった。
■(株)吉田金右衛門商店 0776-83-1166 ・純米大吟醸『雲』 720ml 2,500円 1800ml 5,000円 |