日本酒/おすすめの日本酒

川中島で女性杜氏が醸す注目銘柄『幻舞』をたずねる旅 長野うまい酒うまいもん探訪(2ページ目)

今大注目の『幻舞』(千野酒造場)は女性杜氏であった。「幻のように手に入らなく、舞うように酔えるお酒を造りたい」と麻里子杜氏。にごり酒も絶品の美味しさ。別所温泉とおそば情報もあるよ。

友田 晶子

執筆者:友田 晶子

日本酒・焼酎ガイド

酵母に愛されている麻里子杜氏

翌日は、川中島にある「(有)千野酒造場」を訪ねた。


ここはIT企業本社かと見間違うばかりの千野酒造場。(=左)
メイン銘柄「桂正宗」の名前が。(=右)


天井が高くホールのような内部。
400年もの歴史を持つ・・・と聞きすごく古い建物をイメージしていたのに、ついた瞬間目の前にあらわれたのはなんとも近代的な社屋であった。造り酒屋というよりIT企業の新社屋って感じだね、こりゃ。

広々としたホールを上がると、麹室やタンクが並ぶ仕込み室、洗米場などが、清潔にピカピカと輝いて並んでいる。「父がこういう風に作り変えてしまって・・・」とおっしゃるお二人だが、新しいし使い勝手が良さそうにお見受けする。


麻里子さんとご主人。若いお二人に期待したい。
麻里子さんの丁寧でわかりやすい説明をききながら、昔の地主時代の航空写真をみながら「昔ブタ飼ってたんですよ」とか「道が細くって蔵人も迷って帰れなかったことがあったんです」とか、おもしろいお話を聞かせていただいた。

造りを丁寧にきっちりと説明してくださる姿から、麻里子杜氏は、女性らしいやさしさに、プラス、まじめで一徹というような一面を持っているように感じられた。

さらに、今回蔵見学で驚いたのは、発酵中の仕込みタンクのまわりに座って話をすると、話しをしている人の前の部分が、急にぶつぶつと酵母が元気になるということ。
我々に説明してくれる麻里子さんの前のところだけが、急に泡をたくさん吹き出すから驚いた。「酵母も生き物ですから、わかるんです」とおっしゃる。


これが日本酒の基本となる「黄麹
菌」。「もやし」という。
これにはちょっとうれしくなったし、ますます生きたお酒に興味が湧いてきてしまった。
「だから、今は静かめのクラシックをかけているんです。最初はジャズをかけていたんですがちょっと元気になりすぎる。うちではないですが演歌を聞かせているところもあるらしいですよ。ここでは品のあるお酒になってほしいという意味もこめて今はクラシック。まあ、どこまで関係があるかわからないんですけどね」と笑う。


発酵タンクは元気に働いている。
愛情もって育てている麻里子さんは、きっと、酵母たちにも好かれているんだと思う。急にぶくぶく騒ぎ出したのは、彼女が来たからうれしかったんだろう。赤ちゃんやペットが親をや飼い主がくるとキャイキャイうれしがるように。



『白い酒』にノックダウン。お燗がいいのもうれしい


「幻舞」麻里子さんが心こめ
て醸したお酒。
試飲をさせていただいた。
今、東京をはじめ日本酒通たちに騒がれている『川中島 幻舞』。これは麻里子さんの作品で、「幻のように手に入らなく、舞うようにやさしく酔う」という意味をこめて命名したとのこと。もとは「幻舞翠」としようと思ったらしいが結局二文字に決めたのだとか。
49%精米の美山錦、アルプス酵母使用。

アルプス酵母らしい熟れたリンゴのような華やかな香りが印象的だが、味わいはしっかりとした骨組みを感じるハードなイメージ。原酒の強さも感じられる。しかし後味はどこか品と奥ゆかしさの漂う飲み心地で、このあたりが人気の秘密なのではないかと思われた。


友田が気に入った火入れの
にごり酒。もうとりこ♪
この日、思わずおかわりっと言ってしまったのが、『白い酒 川中島』のにごり酒だ。うすにごりタイプではないしっかり米が入ってまっせ!というにごりで、米の旨味を十分楽しめる。

火入れなしと火入れの2種があるが、火入れなしのほうは、シュワシュワ泡立っていて開けるときには要注意。下手をすると、中身半分なくなります。ちゃんと説明書もつけて販売されるとか。こちらは、炭酸ガスのせいでピチピチ舌に刺激がありドライ感が楽しめる。

私は火入れタイプが好み。なめらかさが増し旨味倍増という感じでいくらでも飲める。濃いにごり酒にありがちなべったり重い感じがなく、かろやかできれいな口当たりもいい。
で、これを熱燗にすると、実は、より美味しくなるってことを、善知鳥のご主人とツアーメンバーに教わった。それもやや熱めにすると、きりっと引き締まった味になり、オヨヨヨ、オヨヨヨ、なに、この美味しさと声が出るほどひきつけられてしまった。


火入れなしのフレッシュ感
あふれるにごり酒。
最近は、吟醸でも、生でも、古酒でも、お燗ありよ、あなた次第よっていう風潮になってきて、お燗フェチとしては実にうれしい状況であるのだが、にごりもいけるとはまったく驚き。またまた新しい発見をしてしまったなあ。

このあと出していただいた『桂正宗』(←基本銘柄はこれ)の「普通酒」もお燗が美味しいこと美味しいこと。酒質のよさのほかに、善知鳥のご主人はお燗名人であったのだよ。お茶用にだされたポットのお湯で、じんわりいい具合のお燗にしてくれちゃったのだ。
ヨイショに弱い人間は・・・、いやいや、お燗の上手な人は、酒飲みの旅には必要ですな、まったく。


温泉マニア垂涎の加賀井温泉「一陽館」


加賀井温泉の後は善光寺ビールが
気持ちいい。
別れを惜しみつつ、千野酒造場をあとに、ここから車で20分程度の松代温泉にむかう。
目的地は「一陽館」(正確には加賀井温泉になる。)。

ここはいまや温泉マニア垂涎の湯なのだとか。
超濃厚ナトリウム泉で茶褐色のお湯。杜氏・・・じゃなかった(お酒の仕事していますからね・・・)湯治としてもよく使われる温泉らしい。



温泉近くドライブインは峠の釜飯で
有名な「おぎの屋」がある。
温泉成分は普通の20倍。説明してくれるおじちゃんは「温泉の素を80袋入れたようなもんだからっ」と豪語していた。「ここは石鹸で身体を洗うようなこともシャンプーすることも出来ないよっ」ともおっしゃる。どうしてそんなに怒っているの?と聞きたくなるくらい力づよい説明だ。たしかに湯質はぬるぬるで石鹸類は泡がたたないし意味がない。ともかく入るだけ。露天もある。飲むとすっぱにがい。入浴料300円。

1時間弱入っていたけど、身体はよく温まりお肌もツルツル。帰りのバス(この日は高速バス使用)のなかでもぽかぽかゆったりでご機嫌であった。
北アルプスに沈んでいく赤い太陽がすこしだけ春の気配をもってきてくれたようだ。


今回も慌しい旅だったが、ここ長野にも、いいお酒があった。
やっぱ、長野は私にとって大吉方向であったようだ。ふふふふ。

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