思わず笑みがこぼれる温もりに溢れる店
料理は、どれも正真正銘本場モロッコ仕込みの味。とはいえ、前菜のインゲンのサラダは、モロッコでは野菜を食感がなくなるまで煮ることが多いところを、色と食感を残したり、さつまいものシナモン煮は甘みをおさえたり(?)と、日本人である歩美シェフならではの感性が随所に見られる。しかも、添えられているイタリアンパセリを口に含めば、苦みや香りがバシッときき、通常私たちが手にすることのできるイタリアンパセリとは別物。さつまいもも、形が面白く甘みが凝縮された小ぶりのものを仕入れるなど、味の追求にも余念がない。モロッコ料理の台所「エンリケ・マルエコス」は、質、量ともにかなり満足のいく料理がいただける。しかも、さすがは料理雑誌やテレビなどで活躍されている、著名な料理研究家のもとで修行された経験をお持ちとあり、盛りつけもとても美しい。
ほんわかするような家庭的な味なのに、プロの味。「エンリケ・マルエコス」では、歩美さんがモロッコで培った、温かくセンスに満ちた料理であふれている。加えて、彼女が醸しだす親密な雰囲気もまた特筆すべきところではないだろうか。
時間がゆっくりと流れる小さな小さなお店だから、本当は教えたくないけれど、ここまでモロッコ料理を楽しめるお店はそうあるものではない、と思ったので紹介しました。そうそう、来年にはアラカルトメニューを増やすことを考えているとのこと。ますます、きちんと作られたものを丁寧に味わう幸せに気づかせてくれる店となることだろう。
最後に。このお店では写真を撮ることを忘れ、ぜひともモロッコ時間、モロッコらしい空間を愉しんでいただきたい、そんな個人的な想いも込めて、料理の写真は掲載しませんでした。