フラン地方料理の再構築

パン。
パンはマダム手作りの麻袋に入って登場です。
夜はアラカルト、昼は「フランスの地方」をテーマにしたコース料理で、一ヵ月半毎にテーマが変わっていき(価格はテーマにより変動しますが、およそ5千円前後)、「Menu terroir de la France No.2」(4.800円)と名付けられた今回のテーマは、「ポワトゥー」「シャラント」「ヴァンデ」地方。

料理は「フランス地方」の伝統料理をそのまま出すのではなく、それぞれの伝統料理をモダンに再構築してあり、それぞれシェフのセンスが光るものばかり。

というか、シェフの料理は再構築というよりも、もはや芸術の域ですね。
これは最近の若い世代(昭和50年代生まれ世代)のシェフの作る料理全般に言えることですが、これからの日本のフレンチ(和食やイタリアンも)は、単に美味しいモノだけを出す時代ではなくて、個々の「表現」の時代に来たのではないか? と実感します。

これまで「模倣」時代から続いてきた「伝統(クラシック)料理」という永遠たる歴史(レシピ)から抜け出す方法があるとすれば、それはテクノロジーに頼った超調理法的なやり方なんかではなくて、結局は「人(個人)」のセンス(表現)なのかもしれません。

次世代のフレンチが、「伝統」の枠を超えた個々の「表現」の時代だとしたら、食べる側は今よりもっと楽しくなると思うのです。そんな新しい可能性をグイグイと感じされてくれる、新星レストラン。貴重です。

注)シェフもおっしゃっていましたが、「ラ・シーム」は「ネオビストロ」ではありません。紛れもなく「レストラン」です。お間違えなく。


・コニャック風味のサバイヨンとフォアグラのトースト添え
Amuse Sabayon au cognac.C。
Amuse Sabayon au cognac.C
まずアミューズとして供されたのは、「フォアグラのトースト添え」と、別器の「サバイヨン」。これは「Charentes」地方を意識した一皿で、この地方の名産であるフォアグラ(=鴨)を使ったもの。フォアグラの滑らかさと旨味は申し分なく、コニャック(こちらもCharentes地方の名産)風味のサバイヨンと合わせると、より味わいに広がりが生まれます。

また、甘味を強く押し出したサバイヨンは、この料理だけではなく、別皿のパン(Sammy Pooh!!)に塗って御菓子パンとして食べてもいいですね。


・ムール貝のムクラード
Entree Muclade.P。
Entree Muclade.P
続いては「ムクラード」。フランスでは一般的なビストロ料理ですが、今回はこれの再構築バージョン。本来はもっとムール貝を盛り合わせた感じの男気溢れる大胆料理で、酸味を利かせた生クリームを使ったソースが用いられますが、ここではモダンに「サフランの泡(エスプーマ)」を添えて、軽めの盛り付けにしてあります。もちろん、この「泡」も飾りだけの「泡」ではなく、きっちりと味を濃く利かせてありますし、この辺のメリハリの付いた味覚水準は、まさにフランス的。ルックスと味わいのギャップが面白いですね。

もちもち食感の「ファッロ(イタリアの麦)」と、ふっくらと蒸された「ムール貝」による食感のコントラストも、食べていて愉しく、まはや「ムクラード」というよりも、ガストロノミー的な別次元の仕上がり。


・モジェット豆とウサギのサントンジェ風
Mojhettes sechis a la saintongeaise.P。
Mojhettes sechis a la saintongeaise.P
これが今回の料理の中で、もっとも印象に残る料理で、ヴァンデの名産「モジェット豆(白いんげん豆)」とウサギの煮込み料理を、アガー(寒天)で生ゼリー化させた出汁やハーブのペースト等を使って、今風に仕上げた一皿となっています。

皿の上でも一際目を惹く半透明のアガー(寒天)部分を熱で溶け出させるため、皿の温度を高熱に施し、料理を適温に維持しているところなど、単なる煮込み料理の域を超えた仕様になっているのが面白いですね。

ウサギ特有のクセ(香味)もしっかり残されてありますし、上品な塩加減と、効果的なハーブ使いが織り重なり、(味わい的な)完成度の高さは抜群! 見た目はモダンですが、モジェット豆の存在感が地方伝統料理としてのベクトルを充分に残してくれています。これぞ再構築の理想形というか、まさに今のパリ(フランス)を表現するに値する仕上がりと言えるでしょう。

次ページでは、コース料理後半を御紹介します