ランチ限定コース「テロワール・パリジアン」
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パリの三つ星で味わう優雅な一時。男性はスーツ必須です。(C)Le Meurice |
パリに生まれ、パリをこよなく愛するシェフのモットーは「私の料理は私の都市のようであり、私の都市とはパリなのです」とのこと。この哲学からもわかるように、彼はこの都市の歴史からインスピレーションを得て、伝統的な料理や古くて忘れられたレシピを掘り起こし、目覚めさせ、洗練させて、新世紀に相応しいひねりを利かせて、芸術的な一皿へと昇華させることに成功させました。それが「
テロワール・パリジアン」というランチ・メニューなのです。
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毎日、フランス中から様々な厳選食材が集まる。 |
この特別メニューは、シェフ自身がパリ周辺“イル・ド・フランス”の生産者たちに依頼して、新たに甦らせた最良の食材を使用して「パリの美食」を再発見・再創造しただけでなく、今世紀における美食は「健康的に食べる」という配慮が欠かせないというポリシーの元、胃や身体に優しいものとなっています。
シェフが素晴らしくスマートな体型を保っているのも説得力がありますね。その上、78ユーロというお財布にも優しい良心的な価格設定! 三つ星レストランのランチで70ユーロ台というは、私の記憶している限り、ここムーリスぐらい。まさに3拍子揃ったランチ限定のスペシャル・コースなのです。
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「テロワール・パリジャン」はランチでのみ味わえる。(C)Le Meurice |
私自身もヤニックの「テロワール・パリジヤン」をたっぷりと堪能してきましたが、パリ近郊食材を使った、また、かつてパリにあったであろう「パリ」という郷土のフランス料理を、彼が新解釈して提案する場(フィールド)である、ということは強く伝わってきましたね。
さらに、同時に日本の食材、つまり山葵や昆布などの「和」を、フランス人ならではのセンスで巧みに使用されているポイントや、「軽く美しく」を前面に押し出した「素材重視」の調理テクニック(センス)は、日本通なヤニックならではの特徴と言えるでしょう。
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現代フレンチにおいて「軽く美しく」は基本。(C)Le Meurice |
ヤニックの料理は、どこか幻想的なイメージを受ける。(C)Le Meurice |
例えば、ある日の献立で食した「テロワール・パリジヤン」で供された前菜の「野ウサギのテリーヌ」は、一般的なパリのレストランで出される大味で塩味過多気味なテリーヌとは違い、味わいが非常に繊細で、下処理にも丁寧に手間暇をかけいることがよく分かり、スジ煮込みのような、とってもしっとりとした舌触りが印象的。ジューシーな旨味だけで仕上げられているという感じで、これには驚きを隠しきれませんでした。
単なるパリの食材を多用するだけではなく、京料理に慣れた日本人である私が食しても、感無量レベルの「素材重視」&「旨味」の調理センスは、従来のクラシックを超える、若き次世代(パリ)フレンチの新たな可能性となりえると確信しましたね。
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盛り付けも美麗な魚料理。(C)Le Meurice |
魚料理で印象的だったのは、「鱈」を使ったモダン料理で、セロリのムースや、ジェリーを使った色鮮やかな盛り付けも含めて特筆クラスのクオリティ。白い皿の上に描かれるパステルカラーは美しさだけではなく、味わいにも美しさを付与し、ロゼのシャンパーニュと共にいただくと、一口目で心奪われるほどにエクセラン!
まさにSTARDUST MEMORY
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やはり、フレンチと言えば「ジビエ」料理。(C)Le Meurice |
しかし、何と言っても「ル・ムーリス」でもっとも忘れがたい逸品だったのが、ロワール産の「鳩」を使った肉メイン料理! ジビエの季節にはパリのレストランで「鳩」を食べる機会が必然的に増えますが、今回に「ル・ムーリス」で食べたものを超える鳩料理には一度も出会えないほどでした。
内容としては、ポントワーズ産のキャベツを織り重ねるように盛り付けた中に、ロワール産「鳩」の胸肉等の部位と、口の中でふるふると揺れるような柔らかさのフォアグラが盛り込まれており、そこにアクセントとしてミリ単位に薄くカットされたベーコンが旨味とコクを加味する、という実に奥深い仕上がり。正直、これが食べられただけでもパリ生活を続けてきて、そして取材が出来て良かった! と心から思えましたね。何より、これが78ユーロのコースの一皿だということが、純粋に凄い。これが本場のフレンチ三つ星の実力というものでしょう。
次のページでは、若き天才パティシェであるカミーユ君のデザートを紹介します。
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(C)Le Meurice |