というわけで今回は、「日本のハーヴェイ・ミルク」と題して、恋多き(同志愛も壮大だった)ハーヴェイ・ミルクから日本の僕らへとつながる様々な「愛のカタチ」について、お送りしたいと思います。
ゲイに生き、愛に生き~『MILK 写真で見るハーヴィー・ミルクの生涯』
『MILK 写真で見るハーヴィー・ミルクの生涯』 監修:伏見憲明/訳:安齋奈津子/ISBN:9784904249062/1,995円(税込) |
100枚にのぼる記録写真、インタビュー、希望のスピーチ全文、そして映画のメイキングが収録されていて、ミルクの生きた時代のことや、映画の舞台裏の感動などが、生き生きと伝わってきます。
オビ(帯紙)には『ぐるりのこと。』の橋口監督の推薦文が掲載されています。「世界は変えられない。無力な思いに膝を折るとき、ミルクの生きた時間にふれてみるといい。希望を掴み取る腕力がよみがえるはずだ」
本当にその通りだと思います。自身も重いうつで苦しんだ橋口さんだからこその説得力で、胸にしみると同時に、力をくれるような言葉です。
作家アーミステッド・モーピン(ミルクと同世代の親友)が「序文」を書いています。
そこで知ったのは、ミルクが亡くなる直前、スティーブという恋人がいたこと。パーティでバットマンに登場するロビンに扮していたスディーブに、市政執行委員は「僕の背中に乗っておくれ、天才少年くん。ゴッサム・シティまでいっしょに飛んでいこう」と口説いたとか(ステキ!)。ミルクが亡くなった日、ニュースを知り、失意のうちに家に帰ると、ルームメイトのメモが置いてあり、そこにはミルクから「今夜会わないか」と朝電話があったと書いてあったそうです…。
続いて、オスカー受賞式で全米のゲイの若者に向けて「君たちは美しい、価値ある人間」と感動のスピーチをした脚本家のダスティン・ランス・ブラックが、「まえがき」を書いています。
保守的なテキサスのモルモン教徒の家に生まれたブラックは、若い頃、絶望の淵にいました。が、たまたま、ミルクの録音演説を聞き、これは自分へのメッセージだと、初めて自分をありのままで肯定してくれる人に出会ったと感動し、暗闇の中に初めて光を見出したのです。カリフォルニア州の同性婚を禁止する「提案8号」が可決された晩、ある奇蹟が起きたそうです。まるでミルクが亡くなった晩のような…。ぜひ読んでみてください。
「part1:インタビューと写真で見るハーヴィー・ミルクの生涯」では、本当にたくさんの写真とインタビュー、ミルクの演説原稿の原文などが掲載され、ミルクが生きて活躍した時代を知ることができる貴重な資料になっています。
アーミステッド・モーピンは真っ先に「ハーヴィーは実に性欲旺盛だった」と語りました。そして、いつもハーヴィーは恋をしていたのです(そこにパワーのヒミツがあるのでしょう)。意外とマッチョだった若い頃から、スコット・スミスという美しい恋人とサンフランシスコに移り住んでからの幸せな生活、政治家として目覚め、活動を展開していく頃…と、時代を追って、僕らと何ら変わることのない人だったハーヴィーの人生絵巻が浮き彫りにされていきます。カストロのゲイたちのライフスタイルやSEXYな男たちの写真も目に楽しいです(眼福です)。
「part2:映画『ミルク』メイキング」は、映画の中の写真と、映画の撮影風景、撮影に関わった人たちの声などによって構成され、この記念碑的な映画がどうやってできていったのか(メイキング)が、生き生きと伝えられています。
たとえば、見事に再現された「カストロカメラ」を見て当時を知る人たちが感涙したこと、観光客がまちがってフィルムを買いに来たこと、ミルクに生き写しだったショーン・ペンの奇蹟的な素晴らしさ、ダン・ホワイトに扮したジョシュ・ブローリンが横を通ったときにクリーブ・ジョーンズが感じた戦慄…など、舞台裏で起こった様々な出来事を、とても興味深く知ることができます。
ミルクの時代から映画『ミルク』上映に至るまでの年表のあと、最後に、この本を監修した伏見憲明さんが、70年代アメリカに生きたミルクを今の僕らへとつないでくれるような「あとがき」で、この本を締めてくれています。
「生きるか死ぬか」だった当時のアメリカに比べると、今の日本はとてもゆるい状況にあります。そこで、ミルクのひたむきさや激しさが「遠い国の出来事」になってしまわないように、伏見さんは「想像力をフル稼働させて、あの時代の限界に思いを馳せること」を説きます。
ゲイのことに限らず、生きていくうえで何か途轍もない困難にぶち当たったとき、心折れてしまいそうになったとき、どうぞこの本を開いてください。そして、決して特別ではない、僕らと同じ一人のゲイの生き様に思いを馳せ、「希望を掴み取る腕力」を、取り戻してみてください。