深刻化する症状
次に気づいた自分の変化は、何をするにもやる気や情熱が湧いてこない……ということでした。家の中ではカウチに横たわっていることが多くなり、あんなに好きだった映画やサイクリングに行くことさえしなくなっていました。
家では家事もする気にならず、ただグッタリしているだけ |
人と話したくないので、電話に出るのも嫌でした。が、たまたま出てしまった時は、ごく普通に会話していましたから、周囲の人たちは誰もC子さんの心の状態には気づいていませんでした。
担当している仕事があるため、相変わらずボランティアの会合には顔を出していましたが、その時も人前では普通に行動し会話ができるのです。でも、心の中ではイヤでイヤで、投げ出して帰りたくなる自分がいて、心と体が音をたてて分裂する感覚をいつも味わっていました。帰宅するとグッタリ疲れて、ご主人に笑顔を向けることもできなかったそうです。
医師の診断は「軽うつ」
ご主人は心配して、家事を引き受けてくれたり、外に連れ出そうと散歩に誘ったりしてくれました。C子さんもご主人には申し訳ないと思っているのですが、それでも心のパワーが湧いてこない状況は同じでした。
この状態にいちばん戸惑っていたのは、C子さんご自身です。今まで何でも前向きに取り組んでこられた自分なのに、何故かそういう気持ちにまったくならない。もうどうでもいい、とさえ思ってしまう……。
自殺願望はないけれど、事故か何かで今死んでも別にかまわないと思っている自分に気づいた時、さすがにヤバいと思ったそうです。
それから程なくして、精神科に通うC子さんの姿が見られるようになりました。最初に伝えられた医師の診断は「mild depression」、つまり「軽度のうつ」とのこと。病名を聞いたときは、なぜかほっとして、少し気持ちがラクになったそうです。
医師からは抗うつ薬をすすめられましたが、薬はどうしても飲みたくなかったので、別の方法を探ることに……。C子さんが考えた、その時点での最良の方法は、ボランティアを辞めることでした。一部の問題ある人たちを除いては、いい人が多かったし、やりがいのある活動だったので、かなり迷ったそうですが、もう辞める以外の選択肢はありませんでした。
現在も頻度は少なくなったものの、まだ定期的に通院しています。ただ、引きこもりの原因となるものから離れたことで、以前のような深刻な症状はおさまってきました。週末はなるべくご主人と外出するようにし、2人でそれを“リハビリ”と呼んで、無理せずリラックスしながらの回復を目指しているそうです。
日本の社会的特徴が濃縮
C子さんの場合、外国に住んでいたにもかかわらず、日本的な人間関係や感情をめぐるゴタゴタに、知らず知らずのうちに巻き込まれていたことが遠因だったと言えるでしょう。派閥やグループを作りたがる人や、空気を読まず自己中心的な人たちは、どこにもいるのです。
特に海外の日系コミュニティという狭いワク内では、場所によって違いはありますが、えてして日本の縮図のようになっている場合が多く、日本の社会的特性が、良くも悪くも“濃くなっている”要素があるのです。
だから、相互援助やサポート体制が整っていて、面倒見がよく、いろいろ助けてもらえる良さがある反面、悪い部分が出てしまうと、C子さんのような体験をしてしまうこともあります。状況をよく見極めて、上手に接していくことが大切です。
自分たちですぐできる対処法は……?