ということは、町場の立ち食いのそばは、変わり饂飩に近い
生麺を含むすべてのそばは、30%以上そば粉を入れるべしというのが、公正取引委員会の指導である。
この指導は、公正取引委員会がそば業界に押しつけてきたものではない。
ちょうどすべての品物が配給制であった戦後の混乱期に、こうした指導をうけるにあたって、当時の業界団体がなにしろ原料が入手困難だったため、三割入れば「そば」と呼んで売ってもいいように、公正取引委員会を説得したというのが真相だと聞く。また、昔の製麺器の能力ではそば粉三割程度までの配合でないと麺にならなかったという技術的背景説もあって、これもなかなか説得力がある。
ともあれ、こうした数字は、いったん決まってしまうと、立場によっていろいろと利害が生まれてくるから、半世紀を経たいまでも全く見直されることなく運用されているというわけである。
というわけで、前置きが長くなってしまったが、立ち食いそばや乾麺、それからコンビニのそばなどは、多くがそば粉含有率30%の麺を提供しているというわけだ。支配的な材料は小麦粉ということになるから、3割しか入らないそばは、どちらかというと『変わりうどん』に近いといえなくもない。
そんな風潮のなか、6割のそば粉を奢った立ち食いそば屋が四谷にある
店構えは、どこから見ても立ち食いそのもの。ドアをあけて店内に踏み込むと、愛想がよいとは言えない食券の自動販売機が、品書きの名前を貼り付けたボタンを剥き出しにして、入店者を待ちかまえるといった風情だ。
350円を投入し、冷やしたぬきそばのボタンを押した。正面にあるカウンターにチケットを持っていく。カウンター上に並べられた天麩羅が旨そうなので、帆立天を所望。こちらは現金精算で80円だ。
注文を済ませると、釜前(茹でる人のこと)を担当している奥さんから、「1分半ほどお待ちください」と声がかかった。
ふと見ると、この注文のための麺が、まさしく今投入されたところだ。
待つこと90秒。渡された丼には、信州で生産されたというそば粉6割の、まぎれもなく茹でたての麺があった。啜れば、3割そばのゆで麺とは明らかに違う食味と食感があった。
【政吉そば】
JRおよび東京メトロ四谷駅
しんみち通りを入って150m位、左側
蕎麦粉6割に、つなぎとして山芋を加えたオリジナル麺は、店主が懇意にしている長野県の製麺所から毎朝宅配便で届くという。
東京都 新宿区四谷1-8
定休日:土曜日・日曜日・祝日
営業時間:07:00 - 19:00