蕎麦店ならではの、器に対する想い入れも大きい





さらに、そば店の場合、品書きによって、理想的な丼のデザインが異なってきます。たとえば、山かけや玉子とじのように、そばの上に用意する上置きが拡散するタイプの品書きは、表面積が五寸程度と小さく、やや脊丈の高いデザインがよい。鴨南蛮、穴子南蛮、かき揚げそば、天ぷらそばなどは、のせた上置きを映え立たせるため、五寸半程度の口径としてゆったりとした盛りつけで魅せたい。最近人気の冷掛けは、のびやかな六寸の口径で麺とひたひたの汁のコンビネーションを楽しみたい。さらに、スパゲティも提供できるような洋風の八寸平丼があれば、チーズやトマトといった欧風の素材も採り入れたモダーンな品書きも展開できます。

ということは、この基本四種を、360ml、400ml、500ml対応の型に展開してすべての需要に応えるとなると、絵付けを施すまえのベーシックな型だけで、なんと15種類ものデザインが必要となります。

ここまでは、機能の話。実際の丼は、お店のご主人のお好みや店舗のインテリアにあわせて、いくつもの絵柄が用意されていなければなりません。それも、江戸時代から連綿と続く伝統的な柄のほか、できれば現代感覚にあふれた斬新な意匠も欲しいところです。と、考えてくると、18位は色柄が欲しくなる。

ということは、丼だけで、15種類の型×18種類の色柄ということですから、これだけで270製品になります。もちろんシリーズとしての蕎麦器の体系を考えた場合、このほかに徳利や薬味入れや猪口なども必要でしょう。

気が遠くなります。理想的なそばの器を開発しようとすると、ゆうに400種類を超えるバリエーションが必要なのでした。