2/2 ハッピーなそば店経営 [そば] All About

メニューにもきめこまかな気配り

「そば処おおの」さんの成功の要因は、女性をとても大切にする運営をしているという点にある。中高年男性が好む伝統的なそば店のメニューは一通り提供しているが、女性をターゲットとしたメニューが豊富に用意されているところが心憎い。

たとえばこちらは、魅力的な具がたくさん乗った梅ぶっかけ。普通のぶっかけではなく、きりりとした梅の酸味が添えられて、暑い日にはずいぶん出たとか。もちろん注文するのは女性が主体だ。

▲季節限定、女性に大人気の梅ぶっかけ

また、野菜天もりも女性に人気。植物性の天だねだけだが、たとえばパプリカをダイナミックに切ってあげてあるなど、彩りもよくリッチだ。さほどの原価でもないので、値頃で提供できる点もいい。

そば処おおのさんには、値ごろなサイドメニューがいろいろあって、食事をする人にも、お酒を愉しむ人にもうれしい品書きが豊富だ。つい、もう一品の注文を促し…お客様の単価をアップする心憎いシカケとなっている。

▲これも女性に人気という野菜天もり

主力商品もパワーアップ

大野さんは、もともと素晴らしいお蕎麦を打つ人であったが、今回いただいたそばは、４年前のものよりさらに格段に旨くなっていた。むべなるかなと思う。そば店は開業したてがスタートラインで、それから年月を重ねるごとに精進したぶんだけ旨くなるのが常だ。

この旨いそばは、大野さんが不断の研鑽を忘れていないことの、何よりの証左である。毎日、使うぶんだけ丁寧に碾く自家製粉。その大切な粉を慈しむように麺線にしあげていく。いくぶん細く、小粋な仕上り。せいろと、つけとろでいただいたが、どちらも香りがたつ素晴らしい出来映えであった。

▲人気のヘルシーメニュー、つけとろせいろ

余裕があれば小上がりがあるといい

「そば処おおの」のもう一つの顔が、足をのばして寛げる小あがり。一人から小グループまで、機能的に応対できるカウンターや大テーブルと異なり、予約のお客様をじっくりと応対するのに適した空間だ。床に直接座るため、目線が低くなって、さほどの広さを確保しなくとも窮屈な感じがしないのがよいところ。この店舗では、少し奥まった絶妙な位置にレイアウトされており、お客様は大テーブルから隔絶した空間を占有しているような気持ちになり、サービススタッフの奥様の動線も、きわめて自然に流れるように設計されている。これは、巧い！

都心のコンパクトな店舗だと、休憩場所がとれないことも多い、また、創業期には店舗に泊まりこまざるを得ないこともある。そんなとき、小あがりの存在は心強い。

（※大野さんは、敷地内にご自宅をもち、ここで休憩することはありません）

▲宴会に対応し、アイドルタイムに休憩できる汎用スペース

そうこうしているうちに、そば処おおのの予約電話のベルが鳴り響いた。これから8人で訪れたいので、席を確保してほしいとのこと。

即座に奥様が「予約席」の札を小あがり席に掲げた。しばらくすると、原色のコスチュームに身を包んだサイクリストの一行がやってきた。自転車で、いい汗をかいてきたのだろう。たぶん、これからは市内に向かう下り坂なのだろう。生ビールと、日本酒のオーダーが入り、健康感に満ちた談笑が小上がり席から聞こえてきた。

お店が、にわかに華やいだ。お客様も、大野さんご夫妻も、そして同席した私も、なんだか嬉しくなった。ハッピーな店は、素敵である。