老舗のそば店でランチタイムにお酒をいただくというのは贅沢な楽しみである。そもそも、昼間に堂々と手酌で酒が呑めるという場所は蕎麦屋以外にないのではないか。
確かに寿司屋でも酒は楽しめる。しかし、それは本格的な「お食事」の際に、食中酒として「日本酒」を選んでいるわけで、蕎麦屋できゅっと一杯引っ掛けるようなスタイルとは異なる楽しみなのである(実は、それも好きなんだが)。
蕎麦屋で呑む場合(とりわけ日中がいい)、店の支払いを済ませて小半時も逍遙すれば酩酊がすっかり失せはてる位の分量を楽しむのが粋だ。
というわけで、一人で(まぁ、何人でもいいが)ランチタイムにきゅきゅうっと呑りたくなったら、最寄りの老舗蕎麦屋に駈け込もう。
こういった場合、特に手打ちにこだわることはない。それよりも、フロアに気配りの行き届いた係がきちんと待機していて、こちらの一挙手一投足をさりがなく見守って、おしつけがましくないサーヴィスをしてくれるような店がいい。
たとえば、日銀そばの「室町砂場」などは格好のランチ酒スポットである。広々としたテーブル、高い天井。のびやかなのである。
入口をくぐると、「いらっしゃ~~い」という女声のユニゾンがお出迎え。
着席すると提供される渋いお茶に口をつけながらメニューに目を通し、まずはお酒と簡単なつまみを所望する。おそばの注文は、そのあとでオッケーである。
なお、着席時にちょっとした掟があるので要注意。それは、繁忙時間には基本的に相席になるということだ。大抵は似たような一人酒を呑っている先客のところに通されるから、そうした場合先客に軽く会釈するとか、失礼しますの一言くらいかけるべきである。こうしておくと、先客も離席するとき「お先に」などとリアクションがある。袖すりあうも他生の縁というわけである。
こうしたお店とお客さんたちのほどよい距離感が、蕎麦屋酒をひときわ気分のよいものにしていることをぜひ解って欲しい。蕎麦屋という空間は、酒呑みが協力しあって守り抜くべき「環境」なのである。
注文した酒と酒肴はほどなく運ばれてくる。計測したことはないが、老舗が3分待たせることはあまりないと思う。江戸っ子は気が短い。早さも立派なサーヴィスだ。
室町砂場の日本酒は、菊正宗特撰。お燗をと頼むと、きっちり50度くらいの呑みごろで提供される。さすが!そして、本日のお通しはぶ厚い子持昆布であった。
さらに本日頼んだつまみは軽いのが2点。一つ目は香りを楽しむ焼海苔。そしてもう一つは江戸前の浅蜊を生姜で炊いた「あさり」である。
お酒は軽く二合ほど楽しんで、そのあとそばを楽しむつもり。あとでいただくそばは、つまみも兼ねようという欲張ったプランである。
今回食事として注文したのは、江戸の伝統の「おかめ」そばである。どうです、この顔、おかめに見えますか?
ところで、おかめは注文する人も少なく相当すたれているけれども、実は「おかめ」は酒の人気つまみが全部乗っているゴージャスな一杯なのである。というわけで、最初に注文したつまみは、これらの具と重なることがないように吟味していたのである。
ゆば、ぶ厚い蒲鉾×2、出汁巻き玉子、椎茸の煮たの、海老。どうです、これだけ盛り合わせになって、しかも、もれなく「温かいそば」もついてくる!オトクであります。
本日の会計は3,700円だった。お寿司やさんで同じように呑んだら。この3倍位は覚悟するところでしょうね。
砂場では、種物にもそば湯がサーヴィスされる。お好みで割るとよい。
その佇まいは、さすがに老舗の風格。
ところで、砂場にはいくつかのヒミツがある。ここで書くと長くなってしまうから、そばサイトの記事「砂場のヒミツ」を参照して欲しい。
[室町砂場]
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町4-1-13
JR京浜東北線神田駅 徒歩3分
JR総武線新日本橋駅 徒歩3分
地下鉄銀座線三越前駅 徒歩3分
電話:03-3241-4038
月~金 11:00~20:00(L.O.19:30)
土 11:00~19:30(L.O.19:00)
定休日:
日・祝・第3土曜日
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。