そば粉屋さんに電話をかけると、よくわからない専門用語でいろいろ訊かれて困ってしまった経験はないだろうか。 あるいは、「一番高い粉を!」と注文したら、全然繋がらなくて参ったことは? 今回は、そんな方のために、そば粉の種類について、まとめてみた。
■蕎麦の実からは、大別して三種類のそば粉がとれる
この話題をつきつめていくと、とても深いのだが、ここでは蕎麦の実の概略を単純化して説明するために、ざっくりと「三種類」に割り切ってしまう(本当はもっと篩いわけられるのだ)。
まず、蕎麦の実を碾いたとき最初に出てくる粉は、とても細かなもので澱粉質主体の「一番粉」と呼ばれるものだ。これは、実の内層部分にあたり、ねばりけがなく、水では繋がらないことから「打ち粉」として用いられる。また、この部分の純度を高め、夾雑物を徹底的に排除したのが「御前粉(またはさらしな粉)」である。
次に碾かれて出てくるのが「二番粉」であり、「並粉」の主体となる最も蕎麦らしい風味をもつ。最後に出てくるのが甘皮(種皮)であり、新蕎麦のころはこの部分が緑色をしていて新鮮な色合を楽しめる。ここには香りと甘さがある。
この他、外皮と呼ばれる蕎麦殼が細かく割れて混入すると、黒っぽい色のそば粉になるわけで、「田舎蕎麦」などと命名されることが多い。
いわゆる一般的な蕎麦は二番粉主体の「並粉」、変わり蕎麦は一番粉の純度を高めた「御前粉(さらしな粉)」、田舎蕎麦とは並粉に外皮が混入したものと思ってほぼ間違いない。
■そば粉の「仕様」とは
製粉所では、この素材をもとに様々な商品を設定して販売しているわけだ。蕎麦の実といっても、国産ばかりでなくカナダ産や中国産もあり、一口に蕎麦を「碾く」といっても、最終的な仕上げのメッシュ数(篩目の細かさ)によって、性格が大きく異なるからだ。そして、この先は各製粉所の「企業秘密」となるわけだが、製品のマーク(「製品名」と同様の意味)の品質を安定させるため、適宜各種の実をブレンドしている。流通しているそば粉の大部分は、二番粉を主体とした「並粉」と呼ばれるものである。
いっぽう、内層粉を主体とした御前粉(さらしな粉)も、マークとしての需要があるわけで、この粉のほうが一般的な「並粉」よりも価格が高い場合が多い。だから、単純に「一番高いやつを頼む」と注文してしまうと、このタイプが届いてしまい、繋がらなくて困ってしまうということも起きうる(実際に聞いた話だ)。御前粉(さらしな粉)は湯捏ねが基本なので、水では名人でも繋がらない。
そして、そば粉の風味のコントロールは、甘皮のブレンドで行うようだ(企業秘密らしく、粉やさんは、多くを語ってくれない)。
手打ちをするときに欠かせない「打ち粉」は一番粉を使う。純度はともかくとして、粉の性格は御前粉(さらしな粉)と同等なので、水では繋がらないという特性が、却って打ち粉に向いているというわけだ。
以上のような素材を適宜組み合わせて行くことによって、粉やさんは、手打ちに適した最高級の国産そば粉から、機械製麺を目的としたコスト優先のラインアップまで、さまざまな「マーク」を提供しているのである。
もう一度、前回のCloseUp【さあ、お蕎麦を打ってみよう01/そば粉の基礎知識】からそば粉の注文の呪文を引用する。
呪文『一番いい並粉(なみこ)を1kgと
打ち粉(うちこ)を少しだけください』
いかがだろう、今回のCloseUpで、呪文の意味がおわかりいただけただろうか?
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