定番と旬の味覚をプリフィクスで
前述したとおり、こちらの料理はプリフィクス。今回は定番料理と秋の味覚を中心に、5,500円コースの皿数でご紹介します。・アミューズ:生ウニのムース
帆を立てて進むヨットを思わせる容姿ですが、中身は貝柱ではありません。ぷっくりとしたムース、茄子をコンソメで含め煮にしたものに、ソースは温泉玉子を泡立てたソース。発酵バターのような濃厚な味わいと、なめらかな口どけのムースが食欲を優しくかきたてます。
・冷前菜:魚介のカクテル
ひとことで言えば、とてもまとまりのある味。中身は一番下に赤ワインとブイヨンで作ったスープに一晩漬け込んだ温度玉子と、柚香酢で作ったコンソメのジュレ。タコとホタテのソテー、天使の海老のグリエ、新潟の“かおり茶豆”。これだけの素材をまとめるのが、柚香酢のゆずの酸味と香り。それぞれ違ったうまみを持つたくさんの素材を、ひとつの優しい味として感じられるように作られています。
・温前菜:コンソメのロワイヤル
こちらの定番といえるコンソメのロワイヤル、いわば洋風茶碗蒸しです。白いんげんをまるごと使って程よい弾力を持たせることで、その味の深さをしっかりと確かめられます。上にはぷりっとした食感のマコモダケや本しめじなどのキノコで秋を表現。クリュスタッセ(甲殻類)のソースは、メインの味を殺さないよう、軽めの作り。エストラゴンオイルと共に、香りを添え、全体の調和を乱すことなく、おいしくいただけます。
・魚料理:イトヨリのポワレ
この日の魚はイトヨリ。イトヨリといえば南蛮漬けやエスカベッシュにしたり、レモンのソースを合わせるなど、酸味との相性がとても良い食材。こちらでもタップナードを添え、皿からはふわっと爽やかな酸味が香ります。味の面でも、鯛よりも淡白なイトヨリに酸味を合わせることで、旨みの輪郭がよりくっきりと感じられます。付け合せには赤色がまぶしい甘みのあるチェリートマトや、苦味を持つ小茄子などの多様な味わい。オクラとシマササゲで緑を添えるなど、五感全体で感じられる料理となっています。
次ページでは、メイン料理&デザート、とシェフの料理哲学をご紹介します。