すべての人に開放されたティーガーデン
ロンドンとその近郊に18世紀を通して流行したティーガーデン。そこは男性、女性、子供、すべての人に開放された憩いの場所でした。ティーガーデンが流行する前の人々の交流の場といえばコーヒーハウスがありますが、そこは男性のみ立ち入ることができる場所で、女性は紅茶を自宅で楽しむしかありませんでした。ちなみに、男性たちはコーヒーハウスでもお茶を飲むことは出来ました。18世紀に入ってコーヒーハウスが衰退する一方、ティーガーデンの人気が高まります。男性のみが集まったコーヒーハウスに変わり、女性や子供も一緒に時間を過ごすことができたティーガーデンが18世紀には流行。イメージ画 yuka |
最高級ティーガーデンとしてして知られたラネラーティーガーデン
当時、4大ティーガーデンといわれたヴォグソール、ラネラー、メリルボーン、クーパースの中から、最も華やかであったラネラーについてご紹介しましょう。ラネラーティーガーデンは1742年チェルシーにオープンしました。これはラネラーティーガーデンより先に1732年に開園したヴォグソールを強く意識して建設されました。その目玉となったのは丸いなだらかな天井と、巨大な円形をした建造物がひと際目立ったRotunda(ロウタンダ)。ロウタンダの中では雨が降っても、冷え込む夕方でもお茶に時間をかけて楽しむことができます。 イメージ画 yuka |
巨大ロウタンダは直径約46メートル。内部には壁に沿って仕切られた52個のボックスが備えられ、そこでファミリーなどがお茶を楽しむことの出来るだけの広さがありました。ロウタンダの中心には巨大建造物が設置され、暖炉として冷え込んだ夕方や寒い季節にはとても有効でした。また、天井からはシャンデリアがいくつも吊るされており、この大きな暖炉の柱が巨大ロウタンダの天井を支える役目を果たしていたのです。大広間の片側にオーケストラの演壇、大きなパイプオルガンと歌手のための舞台が設置され、円形のフロアーを歩くひとたちに十分なスペースを残すように設置されました。中心の暖炉に近いところには、ボックス席を利用できない大衆のためにダイニングテーブルも並べられました。
ラネラーのほかにロンドンの北部にはメリルボーン、イスリントン、ハムステッドなど、また西方面には、ベイズウォーター、チェルシー、東方面にはヴォグソール、ランベス、サウスワークなどが有名で多くの人がティーガーデンでの楽しい時を過ごしていたことでしょう。18世紀後半に全盛期を迎えたティーガーデンでしたが、19世紀に入るとティーガーデンの人気に陰りが見え始めます。ティーガーデンでのお茶の楽しみは自宅に友人などを招くアフタヌーンティーの楽しみへと変わり、また戸外ではもっと自然なピクニックの楽しみへと変わっていきました。今ではどれひとつティーガーデンとして存在していないことが残念ですが、19世紀に入りロンドンの都市拡大に伴い、広大なガーデンの敷地はビル建設用地として売られていくこととなりました。ラネラーティーガーデンは1803年に閉園されました。
かつてラネラーガーデンがあった場所は現在のロイヤルホスピタルの敷地となっています。そして、ロイヤルホスピタルの横にはラネラーガーデンという名前の一般的な公園があり、多くの市民の憩いの場所として愛されています。ラネラーガーデンは毎年5月には、世界的に有名なチェルシーフラワーショーの会場としてとても賑わい、この時ばかりはかつてのように人の流れをチェルシーに集めているのです。
■関連リンク:ナショナルギャラリー(イギリス)
こちらでラネラーティーガーデンの有名なロウタンダ内部を描いた絵画が展示されています。1764年には少年モーツアルトがここで演奏したそうですね。