唯一無比の現代フランス料理を目指す
彼のビジネスは好調のようだ。このオーヴェルジュは一旦閉めて来年3月には新しいモダンさと伝統的な部分を残した新しいレストランが完成する。田舎の旅籠そのままのエントランス |
「外へ出よう。」厨房の脇に広がる庭をテラス席に作り変え、ダイニングを個室風の区切られたものからガラス張りのオープンなものにしたいと。キッチンも全部見える上に、ダイニングの真ん中にストーブ、つまり火入れをする調理器具を置き、例えばグリエする料理などはそこで火を入れてテーブルまで運ぶといったことが可能になるようだ。精緻な模型も展示されており、プレゼンテーションも実に上手い。
ディナーは20時半くらいからにしてもらう。料理は彼にお任せだが、一応メニューとワインリストを見せてもらう。日本に比べると料理もワインも確かに安い。14皿のお任せコース(95ユーロ 約10500円)になっていたようなのだが、そんなことはつゆ知らず、出てくる出てくるクリエイティブな料理のオンパレード。
私だけ横置きの日本式。アレックスの遊び心が見えるカトラリーの配置に思わず笑みが出てしまう。 |
伝統に基づく正確な仕事に裏打ちされたアレックス・ゴティエの料理。それらは食べる側の食欲を駆り立て次から次へと繰り出される。ここ最近の日本における、軸がぼやけた現代フランス料理にはない魅力がぎっちりと詰まっている。
まずは牡蠣とアサリの塩スープ。海の香を意識した味わいは決してやさしくなく、ほっとするアミューズというよりは味覚を引き締めろというメッセージにも聞こえるのだ。
こじんまりとしたダイニングが3つある。 |
これから続く10皿以上について書ききれるのだろうか。彼の料理は皿の端っこに盛られるのが特徴だ。フードフランスで彼の料理をいただいたときとても不思議に思ったのだが、盛られても食べるときは真ん中に移動し、ソースと重ね合わせて自分なりの食べ方で楽しむ。そういったことを意識したものなのだろう。
フォアグラのテリーヌとフレッシュバーブの取り合わせ |
しかしそうでないものもある。メインの牛ヒレ肉のやわからローストは細かくちりばめられたハーブの皿が用意された後、真ん中にモリーユ茸と共にバランスよく盛り付けられる。
定番のカエル料理もバジルが効いて実に香り高い。 |
野菜料理も手が込んでいる。ズッキーニを薄切りにして中にグリエした牡蠣が隠される料理はズッキーニのフレッシュさと焼上げた牡蠣の香りが上手にマッチし、畑と海が一体になったかのような錯覚にさえ陥る。
グリエした牡蠣の風味も忘れられない |
圧巻はGenievreというハーブにくるまれたオマールのグリエ。これは手で食べなさいと言われたので一気にいく。この頃から同じダイニングにいたゲストは、「あの日本人はなんであんなに食べるのだろう?」と思われていたようだ。実に光栄なことだ。
香りが飛び出してきそうなブルターニュ産オマール |
料理の写真を撮るということはとても珍しいことらしい。メインが終わると隣の席にいた若いご夫婦のマダムが写真を見せて欲しいと声をかけてきた。写真を見せながら、私はちょっと席をはずし、部屋からPCを持ってきてスライドショーを始めた。するとあっちこっちのテーブルからゲストが集まり、日本の伝統文化や食事の様子に目を潜める。中には日本に住んでいたよ、というマダムもいてダイニングの酔っ払い達は日付が替わるというのにまだまだ話を盛り上げる。ちなみに若いご夫婦以外はほとんどが60代だった。
パリからやってきたというカップルと。食後にゲスト皆で語り合える雰囲気があるのも田舎ならでは。 |