厨房に水槽
何を食べているかわかる料理でありたい、と話す。これはアラン・デュカスの考えと同じだ。いい素材を料理人の技術を介して「フランス料理」に仕上げる。そのために少なくとも彼は人並み以上の手間をかけて生産者と素材を探している。そして十分にトレーニングされた若いスタッフと、最新の調理機器をできうる範囲で使いこなす。厨房内に水槽があったことに驚いたが、彼としては別に普通のことだと、こちらの驚きに気にも留めていない様子だ。
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伊勢海老とタコが泳ぐ |
ほどよく〆られたマコガレイは美しいドレスを纏っているようだ。本山葵と柚子胡椒を液体窒素で固めた粒が僅かな時間とともに溶け出す様子はなかなか面白い。下にはずいきのマリネが敷かれ、赤バジルと合わせたソースと本山葵の上品な味わいが重なる。組み合わせはシンプルだが、緻密に仕上げられたこの前菜は必ず食したい渾身の一皿ではないだろうか。
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美しさもガストロノミーの重要な要素だ |
フォアグラのコンフィは胡麻豆腐の上に乗せられる。68度で18分、スチームコンべクションオーブンで火が入れられ、その後急速冷凍される。フォアグラがもつすべての要素が隙間なく閉じ込められ、これ以上もこれ以下もない仕上りだ。これには完璧という言葉をあてはめていいだろう。煮詰められたバルサミコのソースはややキツめでアクセントとしてはやや強さを感じるがソースをぼかさないのが植木シェフの真骨頂としたらそれはそれで納得がいくというものだ。
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柿の葉を敷き、季節感を表現する |
オチ鱧と松茸のスープ。言葉がない。秩父産天然柚子の風味がふんわりと秋の風を運び込む。柚子と松茸のハーモニー、そこに64度で50分熱を通した卵の黄身が纏わりつくと、これはもう天にも昇る気持ちになろうというもの。ほのかに垂らされたオリーブオイル一つ取ってみても、細部にまで手を抜かない料理人の仕事ぶりが見えてくる。
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この料理はぜひ味わってみたい |