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お皿は長野県松本でアトリエを構える赤松純子氏の作品だ |
「お任せ」に身を委ねる
メニューを見る限り、無理のない範囲で気持ちよくいただける料理が並ぶ。夜のコースは8,950円と13,500円、そしてシェフのお任せの18,000円の3つのコースが用意される。産地や飼育環境をきちんと説明できる素材を揃え、それが適正な価格に反映されているといっていいのではないか。今の時点では創意工夫あるメニューと言うより、これまでしっかりと身につけてきた技術を踏襲する形で、どれを食べても確実に「美味しい」というものを揃えたと感じられる。熟成を焦る必要はない。
得てして開店時は混乱だらけだ。実際に使ってみると勝手が違ったり、集中するとオペレーションに支障が出ることが見えないところも含めて非常に多いのである。その意味でレストランは人間と同じかも知れない。新しい仕事に就くと勝手がわからず、周りについて行くのもやっとで、徐々にチームメイトや顧客のペースを知り自分のペースとあわせていく。
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シャンパーニュも豊富に揃っている |
生まれたてのワインリストは緊張しているせいか、やや硬め。新規店の難しいところは特にブルゴーニュワインの値付けかも知れない。ブルゴーニュのいい畑を選ぶとかつてのよき時代からはかけ離れた銀座価格にしばし呆然となる。その反面、ラングドックやボルドーのワインなどは高価なものから比較的気軽なものまで揃い、選ぶ際の逃げ場もちゃんと用意されている。
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味覚が複雑に絡み合う一皿だ |
小さなアミューズはチーズの香りのグジェール。そして最初の冷菜はラングスティーヌのグリエとメロンのガスパッチョにトマトのジュレを添えたものだ。海の香りとメロンの上品なスープがほんのりと重なり、そこにトマトの優しげな味わいが控えめに溶け込んでくる。夏の暑さを瞬間冷却、とまでいかなくても随分とやわらげてくれる、非常によく考えられたメニューではなかろうか。
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ぜひソーヴィニオンブランと合わせたい一皿だ |
前菜の2皿目は下関から届いた黒鯛のタルタルにトマトのローザスを添えたもの。シルバーの皿に置かれたガラスを通してこの料理の見え方が変ってくるのが面白い。黒鯛は見事なほど、鯛臭さが上品に表現されている。臭さというのは「鯛本来の味」を意味する。海の香りの中に僅かに何かしらの香辛料の味が僅かに仕込まれ、舌の感触に微妙なアクセントを添える。マダムが選んだソーヴィニオンブランと溶け合い、味わいは幾重にも変化し、私はその余韻にゆっくりと身を委ねる。
お任せにしたので料理は次から次へと運ばれてくる。