昆布と鰹が基本。調味料では味わえない香りが漂う。 |
不便さの贅沢
瓢亭の高橋氏の出汁に関する話も面白い。フランスでの実習のときの話だ。まず昆布出汁をとって味見をさせる。「海草の味しかしない」と不評。そこに鰹節を加えて出汁を引く。「こんなにも美味しくなるのか」と。さらにそこに塩と醤油を加える。「これは美味しい!」となる。1+1が2を超えて7にも8にもなると言うことを論理的に教えてくれるのだ。現在は調味料の技術が発達し、ある種の粉を入れるとそれなりの風味は出るようになってはいる。がしかし。
昆布や鰹節はどこにでも売っている。醤油と塩くらいは自宅のキッチンにあるだろう。不便さを贅沢と捉え、瓢亭の味には程遠くとも日々の食事にひと手間かける「贅沢」をたまにはやってみたい。あとは味噌と豆腐があれば完璧な日本料理の完成だ。
この本はもう何度も読み返したのだが、アラン・デュカスの言葉は非常に示唆に富むものだ。卓越した料理人を輩出する教育者としての実績も十分な彼は日本においても一昨年よりフードフランスというフランスの若手料理人の活躍の場を提供している。
ほとんどボランティアでやってるといか思えないこのイベントは毎回記事で取り上げているが、少なくともフランスの地方の魅力、そして一つ星、もしくは近いうちに星が獲れそうな勢いのある料理の一端を日本に運んで来てくれる。そのデュカス氏、「あなたにとってライバルは?」という問いに「過去の自分自身がライバルだ」と言い切る。
また「エル・ブリ」のフェラン・アドリアについてのコメントも本質を突いていてとても面白い。
ヤガラはこんな魚です |
はっきり言ってしまうと、「料理」そして「素材」についてワインほど多くを知らない自分がいる。魚など姿形と名前が一致しないものも多く、ふーんと知ったかぶりすることもある(帰ってからどんな形か調べるが(汗)。ソースや調理法もごくごく一般的なことしか知らない。ワインで言うとAOCを覚えたくらいなのだろう。「美味しくて楽しければいいじゃん」という声もあるが、知ることによってより楽しくなることもある。いや、そうでなくてはいけない。
野菜も自ら収穫すると調理に力が入るようだ |
話はそれるが、自分で料理を作るといろんなことが見えてくる。特にパスタ料理に顕著に現れるだろう。誰もが簡単に作れるパスタ。しかし、毎回同じ材料を使っても出来不出来が極端に違うのもパスタ料理だ。コンビにでも売っているし、茹でて、フライパンでソースに絡めるだけの単純な料理。だがプロとアマの違いが一瞬でわかるだけに非常に興味深い。
中国産のギョーザが「たまたま」話題になっている。これはたった一つの事象に過ぎない。木を見て森を見ず。中国の食材云々語る前に、便利さの裏に何があるか、そして安くて旨いものが世の中に非常に少ないと言うことにいい加減気づくべきである。
冷凍モノは確かに便利かも知れない。しかし上述の出汁の話ではないが、単純なやり方の中に真実がある。不便さが贅沢になる時代が必ずやってくるだろう。手間隙かけて料理を作る楽しさ。美食のテクノロジーを読みながらそんなことにも思いを馳せる。
辻氏が取り上げた6人の料理人に共通していることがある。それは幼いときの食の記憶。ミシェル・ブラスは子供の頃寒い外から帰ってくるとおばあちゃんがホットココアをよく作ってくれたそうだ。そんな幸せな記憶をもとにチョコレートのお菓子として表現し、現在に至る。デュカスも南西部の小さな村で、おばあちゃんが焼いてくれたチキンローストが忘れられないと話す。
この記事をご覧の皆様も一人ひとりが幼いときの食の記憶をお持ちに違いない。きっとそれはずっと記憶に残るものなのだろう。
最後に、辻氏はミシュランについて興味深いコメントを寄せている。ご一読いただきたい。
エスコフィエの著作も大切に保管されている |
実は昨年秋に秋葉原駅前にあるUDX内に『辻調グループ 秋葉原サテライト・キャンパス tsujicho akiba cafe』を開設し、大阪あべの、東京・国立、フランス・リヨンに拠点を持つ辻調グループの情報発信の場所として料理、製菓だけではなく広く食文化に関する情報を発信することを目的としているようだ。
また、食の業界に興味をもっている方々への学校情報、業界情報の提供、首都圏を中心に食の第一線で活躍している卒業生をはじめ、食業界の方々との交流・学習の場など、多角的な機能をもったスペースとして開放されている。
辻調グループ 辻調理師専門学校
辻調グループ 秋葉原サテライト・キャンパス
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