時は止まったようだが、実際には今も生活が続く路地

細い路地を入っていけば、そこには樋口一葉の菊坂旧居跡が静かに佇む
本郷通りから西側へ、西側へと路地を進んでいく。地図でいうと本郷5丁目あたりだ。だんだんと街の景色が変わってくる。

狭く短い坂がいくつもあり、よくわからない。ぜひとも見たかったのは、有名なかつて樋口一葉が住んでいたという住宅で、そこに井戸があるのだ。なかなか見つからないでいると

「ここですよ」

とNくんが教えてくれた。細い路地を入っていったところ。先が階段になっていて、井戸がある。あー、ここだぁと思うと同時に、ここは単なる観光地ではないということがすぐにわかった。この路地の入り口「樋口一葉の菊坂旧居跡」という看板があって、そこにはこんな一文があった。

「見学は近隣の皆様のご迷惑にならないようにお願いします。 文京区教育委員会」

近隣というか、ここの住宅すべてに今も人が住んでいるのである。なるほど、散歩者の中には心無い人もいるのだろう。だから、街の人も警戒しているし、「駐車禁止」「敷地内の物に手を触れないでください」などの貼り紙もあるのである。

これまでテレビでも見たし、雑誌の写真でも何回か見た風景だけれど、実際にやってきたのは初めてである。ついつい観光気分で浮かれていたが、ここには今も生活する人がいるのである。生活するひとがいるからこそ、昔のままの形でこうして残っているのだ。

ついつい観光気分で浮かれがちだが、今も生活する人がいるだ
たぶんこの一帯は東京の大空襲でも焼けずに残ったのだろう。そのため、戦前の面影をそのまま残している町なのだ。家屋は小さく、路地には草花があり、井戸があって、なるほど、写真やテレビだけではわからない、空気感のようなものがここにはあった。

井戸も樋口一葉の旧宅だけではなく、他のところにもいくつかあった。また、同じ様な住宅や路地がいくつかある。まさに井戸端でおかみさんたちが数名話しこんでいたりする光景に出会うのである。時間が止まったような町だけれど、今もここで人々が暮らしている。僕たちは迷惑にならないように声をひそめ、路地を歩いた。