「紗張機」をつくった亮さんである。ラバーカッターぐらい朝飯前……と思いきや、意外にてごずった。
まず一枚刃のカミソリで試してみた。まったく切れない。二枚刃にしたのはいいが、軟らかいとふにゃふにゃして切りにくい。スポンジが厚いと刃が曲がる。ラバーの種類や質によって切れ方にムラが出るのだ。亮さんは考えた。カッターの刃の両側を固定することを思いついた。片側だけ固定していたときに比べ、切れ味が格段によくなった。
切れるようになったのはいいが、ラバーシートに傷がつくという問題も浮上した。切るときは、ラバーをはったラケットを挟み込み、ラケットのふちに沿ってローラーを移動させるのだが、ローラーを支える金属によってシートが擦れてしまう。亮さんは考えた。ローラーの位置をずらし、シートに触れないようにしたのだ。
それだけ? といわれればそうなのだが、熟練のテクニックを要する作業なのだ。ああ、私の言葉は罪だ。亮さんの汗を無化してしまう。
このほか、「刃を交換できるように」とか「もっとコンパクトなサイズに」という小田の理不尽な要求を、亮さんはことごとく飲み、試行錯誤をくり返し、今年の夏、一応の完成をみた(写真、使用説明書付き)。
現在のものも販売できるレベルにあるというが、今後、様々な種類のラバーを試し切りしたうえで、問題があれば微調整するという。小田いわく「遅くとも年内には販売を開始する予定です」。ちなみに定価は3000円の予定だという。
ところで、私はひとつ気になったことがある。「たっきゅん」の方向性である。このまま卓球メーカーへの道を歩んでゆくのか。1年前に語っていた「地方大会のバックアップ」とか「アクロバティックな卓球イベント」というような、トータルプランニングの夢はどうなってしまうのか。
「もちろん、夢は忘れていませんよ。ただ、正直なところ、まだ経済的な余裕がないですね。いまは資金を準備している段階です」
現在は、オンラインショップ「卓激屋」の売り上げと、ホームページ作成の仕事に頼っているのが実情だ。メーカーとして「ta9nJapan」というブランドを展開していくのは、「卓球会社」として自立するための手段だという。
野心は、まだある? そう聞くと、「もちろん」と小田はいった。
そうか。それなら安心した。私はこれからもワクワクしながら見守ることになるのだろう。
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