この顔にピンときた方はいらっしゃるだろうか。
有名選手ではない。こなくて当然である。ピンときたからといって、事を急いてはいけない。このサイトのディープな読者だろうというだけで、どこぞに連絡する必要はたぶん、ない。
彼の名を小田卓志という。1年前、「22歳、『卓球会社』設立の挑戦」という記事で紹介した若者である。9月の半ば、その彼から、しばらくぶりにメールが届いた。
《卓球メーカーとしてようやく商品を出すことができました。ブランド名は「ta9nJapan」です。まだ日本卓球工業会には入会していませんが、ラバーカッターという業界初の新商品も発売予定です……》
相変わらず、怪しげだ。なにしろラバーカッターである。突拍子もないものをつくったものだが、業界初というところに気合いを感じないこともない。私は返事を出した。「東京に来ることがあれば、会いたい」と。すると、近いうちに仕事で上京するという。なにしろラバーカッターである。おまけに前回の記事に、「ワクワクしながら見守りたい」と書いてしまったこともある。会わないわけにはいかない。
10月初旬、新宿で再会した。会って驚いた。去年の夏は、大学を出たばかりだったためか、「たっきゅんTシャツ」を着ていたためか、ずいぶん青臭く見えた。彼の肩書を当てられる人のほうが信じられなかった。それがひと夏を越しただけだというのに、スーツをきちんと着こなしているではないか。新宿の街に溶け込んでいるように見える。なにを着たって同じさ、などということなかれ。「サマになる」というのは、わりに大事なことなのだ。
その証拠に、彼は、福岡の和菓子を手土産に持参してくれた。このサイトのユーザーのためにプレゼントを用意してくれていた(あとで紹介)。そして、なによりラバーカッターの開発にあたった人物を連れてきてくれたのだ。会社の代表らしい振る舞いではないか。
彼が、「ヨシダさんです」と紹介してくれた人物は、一見、町工場のおっちゃん風だ。作業着がサマになっている。新宿の街に溶け込んでいるように見える。なにを着たって同じさ、などということなかれ。作業着が板につくというのは、スーツを着こなす以上に難しいことなのだ。
あれから1年。ナニがどうなってこうなったのか。業界初だという製品の開発秘話でも聞かせてもらえるかもしれない。私はワクワクした。