「今回はちれさんに勝つことを目標にずっとやってきたから、ちれさんに勝った時点で自分に納得できたし、満足感もあったので、終わっちゃったんだと思います。決勝ですか? 今回はきつかったんで、集中力も体力も切れてしまって。自分が攻めてくことが一番よかったんですけど、動けませんでした」
接戦が予想された梅村との決勝だが、ストレート負けを喫した。満足度の差が一方的な展開になった最大の要素だった。梅村は今大会前に1度、羽佳純子に勝ったという経験があったが、小西は小山に勝つのは初めてだった。
さらに小西は、女子シングルスの決勝に進出するまでに梅村の2倍以上の15試合を戦っていた。シングルス5試合、福原愛とのダブルスが準々決勝進出まで4試合、準優勝した混合ダブルスで6試合をこなした。一方の梅村は混合ダブルスへの出場はなく、シングルス5試合と、スーパーシードをもらっていたダブルスは2試合だけで済んでいた。
今大会においては、勝者にふさわしいのは梅村だった。だが、なぜか、小西が敗者だとも思えなかった。梅村とともに決勝の舞台に立ったこと。世代交代を強く印象づけるその一点が新鮮だったせいかもしれない。
しかし、それ以上に、シドニーでの経験が無意識のうちに土壇場での攻め方を変えたこと、小山に勝つことを目標にし、全日本の象徴的存在だった小山を初めて決勝前に引きずりおろしたこと……ひとつひとつの目標を掲げ、それをクリアしていく姿に、より鮮烈な印象を受けたからだ。
「全日本のタイトルは1度もとれなくてもいい?」と聞くと、
「卓球をやめるまでに1度はとれればいい。そんなに何度もとる必要はないと思います。自分には2004年のオリンピックという一番大きな目標があるんで、それに向けて今回はいい経験ができたと思っています」
彼女がもし本気で全日本を狙いにいったとすれば、あっさりとタイトルを手中にしてしまいそうな予感すら覚えた。だから、小西が敗者だとはどうしても思えなかった。「2人の勝者」が誕生した全日本のように感じられたのだ。
礼と杏、それぞれの壁(前編)
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