生々しい時代の証言を知ることができる
大岡昇平の実質的文壇デビュー作となった『俘虜記』。アメリカ兵に捕まり、捕虜収容所で終戦を迎えるまでを自己の体験を元に書かれた小説 |
大岡昇平は元来フッカーで、同じくフックで悩んだベン・ホーガン同様のスクエアグリップ(※現在はややウィークグリップと言われる)を『モダン・ゴルフ』以前に実践し、フック抑制に役立てていたといいます。
『アマチュアゴルフ』では、1960年に刊行された陳清波プロの『近代ゴルフ』で紹介されたダウンブローにも言及しています。もっとも内容は「われわれ、ハンディ20クラスにはさし当り、月の世界の理論」と否定的です。しかし、ダウンブローという新しいテクニックがゴルファーにとって少なからぬ関心を持って迎えられたことが伺えます。
大岡昇平は、戦前に一度ゴルフをはじめています。25歳の頃で、年上の友人、河上徹太郎に連れられ、エチケットやマナーを叩き込まれたといいます。「われわれの仲間でも、河上さんのような心掛けの人が少なくなっていくのは、なげかわしいことである」といっています。ゴルファーのマナーが悪くなるのは、何も今に始まったことではないようです。
「昭和九年は、まだボビー・ジョーンズ華やかなりし頃で、スウィングはまず右足に体重を移し、それから左へ乗りながら打つというモリソン理論一点ばりだった」と回想する大岡は、最初に習った理論のためスウェーの癖が抜けなくて困ったといいます。当時は道具もヒッコリーシャフト。同時代に球聖と呼ばれたボビー・ジョーンズの影響を受けているのはなんとも歴史を感じさせます。
こうした生々しい時代の証言を知ることが出来るのも『アマチュアゴルフ』の特徴です。当時の状況やゴルファーの気質を知るのはとても興味深いものです。