ピエロを演じてでも舞台を支えていく魔裟斗の気概
だが魔裟斗という選手はそれができない。自分が多くの選手をその拳で叩き潰し、MAXという舞台の旨味を十分吸い上げた存在であるからこそ、あえてその世界が十年、いや百年続く権威でありつづけ、多くの人に讃えられる“黄金の舞台”であることにこだわるのだ。だからこそ、最近は封印して来た“ヤンキー”キャラをあえてもう一度引っぱり出してでも、今ひたひたと遠ざかりつつある格闘ファンたちの背中に向けて、「格闘技への注目を終わらせないでくれ。もう一度俺たちすべてのファイターにもっと熱い視線を注いでくれ」という、“隠されたメッセージ”を投げようとしたのではないだろうか。
それはブロードウェイの主役を務めるトップスターが、あえて街中でビラを配るような、少し道化じみた姿かもしれない。だが、彼にはそうやってでも守りたいモノがこの舞台にあるのだ。だからこそ、あえて自分の後ろを追走し「この舞台を引き受ける覚悟がある」と大きな事を口にした佐藤に、“お前は、俺たちの作って来た大看板をただ横取りするのではなく、ピエロを演じてでもこの舞台を支えていく気概があるのか?”その真意を問おうとしたのではないだろうか?
また、自分と拳を交えようとする相手だからこそ試さねばならない儀式だったのではないかとも思える。
果たして佐藤はその思いに気づいているのだろうか?
いずれにせよ、ゴングは間もなくならされる。大会が終了したときどんな結果が出ているにせよ、おそらく魔裟斗と佐藤は、素晴らしい熱戦を繰り広げ、そのお互いを讃え合うスポーツマンの顔に戻っているに違いない。
“猿芝居”でもいい、表面上のいがみ合いでも構わない。今は、魔裟斗の気概を受け止めて、テレビの前で、そして武道館の客席で、真の戦いのゴングが鳴るのを待ち受けようではないか。つかの間“バカと蚊”という滑稽ないがみ合いを見せた、二人のアスリートの“熱”を受け取るファンが一人でも増える事を祈りたい。
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